複雑・ファジー小説

Re: 虹至宝【キャラ募集一時終了】 ( No.20 )
日時: 2015/01/03 11:37
名前: kiryu (ID: nWEjYf1F)

 アレンにしてもゼルフにしても、よもや敵同士でテーブルを囲むとは思ってもいなかった。
 特にアレンなど、ゼルフに戦争を仕掛けた張本人。それもゼルフたちを撤退させた立場にある。
 そんな2人の間には、どこか微妙な空気が漂っていた。

 ファーストフード店に入ったが、特にゼルフに怯えている人物はいなかった。

「あれ……一般人って、服装が違うでこんなに反応が違ってくるのか」
「……人は目の印象が大きいと聞く。俺は魔族だから、実際どうなのかは知らんがな」

 今のゼルフは一般人を装うべく、普段の海賊を風貌とさせる服とは違う服を着ている。
 更に目には伊達眼鏡、首にはネックレスと、よくどこかにいそうな若者に変装できていた。


    ◇   ◇   ◇


 ゼルフとアレンはお互いに珈琲だけを注文し、目立たないように奥の席へ移動した。

「それで、聞きたい事とは何だ?」
「あぁ……」

 これでようやく話が出来る。
 アレンは珈琲を一口飲むと、本題を切り出した。

「まず、その俺を狙ってる暗殺者とやらについて聞きたい。出来る事なら、お前が知ってること全てを」
「なるほど……ならば、まずはこれを見るがいい」

 そう言われたゼルフは、何やらポケットから1枚の紙を取り出した。
 受け取れと言って差し出されたそれは、女性が1人写っている風景の写真。
 写っている女性は、1人の男を射殺している真っ最中だ。

「この写真は、俺の下っ端共に撮らせたものだ」
「ふうん……で、この女の人が、今回俺を狙ってる暗殺者なのか?」
「そうだ。ギルドに携わるお前ならば聞いたことがあるかもしれないが、その女の名は"モード・オライオン"という」

 モード・オライオンと聞いて、アレンは訝しげに眉根を顰めた。
 その名を持つ女は、ギルドだけでなく殆どの組織や民間において少なからず有名で、狙撃や刺殺など、あらゆる手段を以って暗殺を執行するという凄腕の持ち主で知られる。
 ただ、やり方が汚いわけではない。あくまで暗殺なので、誰かを人質にしたりはしないのだという。

「……その女が、俺を?」
「そうだ。お前を殺す動機や理由については俺も知らんが、何にせよこの女は、人殺しの業界ではトップクラスと言える実力を持つ。そしてお前はその女に目を付けられた。つまり、よほどの何かをどこかでやってしまったのだろう」

 ゼルフの言う事も一理ある。
 暗殺者を雇う際、雇った者の腕前が上等なほど金がかかる。これはある意味常識だ。
 そして今回は、その業界においてトップクラスの暗殺者に追われている。
 この現実が語ることは、金をかけてでもアレンを殺そうと思う誰かがいる、ということ。

「……俺、何かしたっけ?」
「無意識という可能性もある。今はそう深く考えず、目の前の事に集中しろ」
「……」

 必死に過去を思い出そうとしているアレンは、ここで予てより抱いていた疑問が大きなものへと渦巻いた。
 何故、敵であるゼルフがここまで自分の助言をしてくるのか——その一点張りだ。

「……なぁ、ゼルフ」
「?」
「俺たち敵同士なのに、何でお前は俺を助けようとする?」
「……あぁ、それか。勘違いするな」
「は?」
「俺の血を滾らせてくれる敵は、今のところお前しかいない。俺がお前を倒すんだ。そこらの暗殺者に殺されて死んでもらっては、成仏しようにもしきれんからな」

 予想もしていなかった言葉を発したゼルフは、薄ら不気味な笑みを浮かべた。
 しかし、それは悪意のある笑みではなく、何の含みも持たない穏やかなものである。

「……あー、つまり何だ。ライバルってことか」
「あぁ、その言葉があったか。そうだな、俺はお前をライバルだと思っている」
「ほう」

 ここで、アレンもゼルフと同じような笑みを浮かべた。

「そこまで言うんだったら、俺が倒すまでお前もくたばるなよ?」
「上等だ、この餓鬼が」
「言ったなこの性悪男がっ」

 ——このとき、2人の間に何かが芽生え始めていたことは、お互い知る由も無かった。