複雑・ファジー小説
- Re: 虹至宝【キャラ募集一時終了】 ( No.23 )
- 日時: 2015/01/04 00:15
- 名前: kiryu (ID: nWEjYf1F)
ギルドの風呂は広く、一度に大勢の人が入れるような工夫が凝らされている。
そもそもギルドという建物自体が宿屋並みに大きいので、その気になれば宿泊施設にだってなれるのである。
これにもやはり理由が存在していて、主に緊急時のための避難所として使われるのが大体だという。
「ふぅ」
そんな広い風呂を、アレンは1人で満喫していた——というわけではなかった。
1人だけだが、先客がいたのである。
「アレン」
低くも高くも無い中世的な男性の声で、その先客はアレンを呼んだ。
呼ばれたアレンが反応し、そちらの方に目をやって最初に目に付くのが、その背にはえた黒く立派な翼。
堕天使と呼ばれる種族の彼を"エネロ・フォーリングダウン"という。
「聞いたぜ。暗殺者とやりあったらしいな?」
「いや、やりあってはないな。やられそうになったところを防御しただけだよ」
「そうか」
浴槽で寛ぐエネロと、身体を洗うアレン。それっきり、2人は口を噤んだ。
単なる風呂だというのに、沈黙がやけに重い。何かいい話題はないのだろうか——
だが、アレンとエネロは最近知り合ったばかりなので、これといって良い話題は見つからない。
「まー、俺ァ上がるわ。そろそろ逆上せそうだしな」
「そうか。またな」
「あぁ。っつっても、どーせ同じ場所で寝る事になるんだけどな」
そう言ってエネロは立ち上がり、浴室を後にした。
後ろから見ていたアレンは、翼を乾かすのが大変そうだなと思いながら、その背を見送る。
『さて、俺も湯船に浸かるか』
やがてエネロの姿が脱衣所へと消えた頃、身体を洗い終えたアレンは浴槽へと向かった。
やたら広いこの浴槽には、大の男でも10人は余裕で入ることが出来る。
久々に広い風呂に入ったアレンは、何とも言えない不思議な気分になるのであった。
『なんつーか、泳ぎたい』
しかし、考えていることは間の抜けたそれだったらしい。
そうして1人、ゆったりと寛ぐこと数十分。アレンはいつの間にか、お湯に浸かりながら浅い眠りに落ちていた。
「あら?」
「あれぇ?」
そうして唐突に響いたのは、アレンにとって聞き覚えのある女性2人の声。
しかしアレンは反応せず、そのまま眠り続ける。
やってきた当事者2名こと"ナタリア"と"ジェシカ"は、揃って困惑の表情を浮かべた。
「アレン、いたんだ……」
「おーい、あーれーんー! おきてー! 溺れるよー!」
ゆっさゆっさとアレンの身体を揺らすジェシカ。
「んぁ?」
数回揺らされてようやく気がついたアレンは、寝惚け眼で目蓋を半分開けた。
そして最初に彼の目に映ったのは、アップの状態で視界に入るジェシカの顔。
「ん? ジェシカか……ってうあっ!?」
次いで目撃した2人の湯巻姿に、アレンは大きく後ろへと仰け反った。
しかし、後ろへ仰け反ったのはいいが、彼は壁にもたれていたため、強く頭を打ってしまった。
「いでぇ!!」
良かったのか悪かったのか。一気に目が覚めたアレンは、一瞬で耳まで真っ赤になる破目に。
「な、なな、ななな何でいるの2人とも!」
「あれ、知らなかったの? ここ混浴だよ?」
「そんな突拍子もないことをさらっと言わないでくれっ」
だが、確かに混浴である。
ギルドは本来、魔獣を倒すために生まれた組織なので、どちらかというと軍に近い性質を持っている。
片や軍というのは、男女関係無く寝食を共にする場所。故に、こうして自然と混浴という習慣がついたのもおかしくは無い。
「まあまあ、これも何かの縁でしょ。アレン、布くれたお礼に背中流してあげよっか?」
「ケッコーデス」
「もう、つれないなぁ」
アレンは先ほどから、ずっと壁のほうを向いている。
安座をしたまま腕を組み、相変わらず耳は真っ赤であり、どう問いかけても振り向こうとしない。
しかし。
「アレン」
「はい」
上司と部下。この関係は重要であり、部下は上司に呼ばれたら返事をするのが礼儀。
そこで思わず振り向いたアレンだったが、彼はすぐにその行動を大きく後悔し、同時に氷のように固まった。
「……」
目の前にある、実った2つのたわわな果実。それは今にも果汁が出そうなほどに大きく、美しい。
持ち主は、ナタリアであった。
「もう、アレンってば。もうすぐ大人になるんだから、そろそろ女の子の裸も見慣れないと」
「……見慣れる必要って、あるんですかね?」
数秒後、何とかして搾り出せたその言葉を最後に、アレンは鼻血と共に湯船へ沈んでしまった。
「あ」
「あ」
残った2人の声がシンクロし、暫く沈黙が走る。
「……じ、ジェシカちゃんがお風呂に誘うからっ」
「な、に、2度目なら無理して入らなくてもよかったのに……って、アレンが死んじゃう! はやく助けなきゃ!」
『あぁ……まさか、このような形で息絶えることになるとは、思いも寄らなかったな……』
ゼルフでも、ましてやモードでもない。死因は他ならぬ、ナタリアの大きな両胸。
男として、別にそれなら死んでもいいかなぁ——溺れながら、アレンはそう思った。