複雑・ファジー小説
- Re: 之は日常の延長線に或る ( No.36 )
- 日時: 2015/01/13 22:32
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: V6BqtuDz)
エレベーターを抜け無事零組まで送られてきた俺なのだが、どうも納得いかない事が多い事に今更気がついた。まぁ、元々納得いかない事だらけなのだから、言い出せばきりがないのだから、今回は三つぐらい例をあげておこう。
まず一つ、何故このクラスの生徒はこの零組の場所を知っていたのかと言う事。
しかしこの疑問は早々に解決された。どうやら表門に集合して副担任で或る「森永 諭」先生に連れてこられたらしい。森永諭とはナイスバディで清楚な麗しい保険室の先生だ。
まさか、彼女がこのクラスの副担任とはタワーの管理者もわかっているではないか。と言うか、何故俺はその集まりに呼ばれなかったのか、そうか呼びかけたのがこの御嶽道仁だったからか。嫌がらせ何ぞ、痛くもかゆくもない。ただちょっと森永女史とは話したかった。
そして二つ目の疑問、何故このクラスは年齢層がバラバラなのかと言う事。可笑しい。
普通、クラスと言えば年齢ごとに分けられるものだ。俺達は二回生、学校で言う所の大学二年生と言ったところだ。だがこのクラスは俺と同じ年齢でありそうな奴が一人もいない。
最年少で七歳と言ったところだろうか。タワーに入ってきたての、俺から言えば新入生と同等。一体どういうことだろうか? この人数を集め、何を始めようと言うのだ。
三つ目の疑問はさっきから御嶽が言っている、「能力」と言うもの。
能力、つまりアビリティ。御嶽はその事について熱心に話している。表情は真剣そのもの。だが俺にとっちゃあ奴が先ほどから語っている話しはゲームか何かのやり過ぎじゃないのかと感じてしまう。だってそうだろう? 現実的に考えて馬鹿馬鹿しい。
だが周りを見てみろ、なにゆえ皆頷いている!? 俺が可笑しいのか? そうならば早急に精神科へ、出来れば森永女史の元へ連れて行ってはくれやしませんか。一日寝なければ整理が追いつきそうにない。そんな御嶽の言葉を一部抜粋してみよう。
「——お前達は国に選ばれた数少ない能力保持者であり、開花している者や未だ眠っている者が此処に集っている。お国の考えではこの日本での地盤沈下、お前達の言う日本半壊により、何らかの影響を受けた者が能力保持者になったと言う。能力保持者は今のところ数を把握できていない。もしかしたら西側の人間すべてが能力に気付いていないだけで能力保持をしている可能性だってある——」
この時点でもう可笑しくなっているのは明らかだ、だがもう少し聞いてみよう。ほら、隣の少年だって目をキラキラさせて聞き入っているではないか。俺も倣え、そして無になろう。
「——西側半壊は自然災害では無く、何らかの人工的な事柄によるものだとお国の御偉い方は考えたわけだ。……で、調べた結果、驚く事実が判明した。どうやらこの地域、丁度俺達の住んでいる地域で生物実験があったらしい。人間を使ったものから、動物を使ったものまで。どんな実験かは詳しくは説明できないが、兎に角法に関わることなのは確かだ。その実験を行っていた奴が不具合を発生させ、出来たのが鵺と言う異常な生物だった。それが暴走し、今に至るわけさ。で、そいつを処理するために見つけられたのが、同時期に見つかった能力保持者、現在は特殊部隊の隊長として働いている人物だ。そのうち会う事になるだろうから、覚悟を決めておけ。噂ではデーモンやら死神やらと呼ばれている。奴の通った後は何もないのが常だ。……ま、所詮噂だ。とにかく、お前達もそいつと同じ様に鵺を倒すために集められた。ここまで聞いて、命を捨てる覚悟はできたか? まぁいきなり言っても仕方がないと思うから、訓練して使えるようになってくれ。お前たちを何も特殊部隊にしてやろうってわけじゃねぇ。ただ、このタワーに居る間だけちょこっと力を貸してくれって言ってんだ。お前達にしかできない事だからな——」
俺はこの辺で思考を止めていたと思う。この後もつらつら本当か嘘かわからない様な馬鹿げた噺を御嶽は続けていた。周りは真剣に聞き入るし、俺はとうとう頭がおかしくなったのだろう。薄々気づいていた、自分が可笑しい事ぐらい。ただその可笑しいはプラスな意味で、なにも御嶽の話しの様なマイナスな意味では無い。
「——最後に、死ぬな」
それだけ言って解散となった。俺達は始業式も始めないままに教室を追いだされる。
教室に集まった錚々たる面々は其々個性的で、俺にはついて行けそうにない。これが若さと言うものなのか、それとも、天性のものなのか。
「そうだ春山、お前居残りな。遅刻した罰だ」
御嶽はそう言って俺を指名した。出ていく人達の視線が突き刺さる事に耐えがたく、かつ、新妻華笑さんの姿を見ている暇が無かったと言う事で、がっくりと項垂れる。
今すぐ帰りたい、帰って妹を見て現実を見る。
だがそれは許されず、御嶽が投げて寄越した課題を解くまではこの席で座って無ければならないと言う現実がそこにあった。