複雑・ファジー小説

Re: 之は日常の延長線に或る ( No.4 )
日時: 2015/01/03 22:35
名前: ・ス・ス・ス[・スo・ス・ス ◆KQWBKjlV6o (ID: wZJYJKJ.)

 キーンコーンカーンコーン——……チャイムの音が頭の中に響いた。
あぁ、無情にも神は俺を見放した様だ。意気消沈のまま過ごす空白の5分間。様々な思いが駆け巡るは消えて行く。

(ダメだなぁ……俺は。いつもそうだ。わかっている事なのに……何故? 昨晩の俺は一体何をしていた!)

どうにもこうにも自己嫌悪に浸り、どんどんモチベーションは沈んでくる。
とうとう帰りたい、帰ろうなどと思っているさなか、次のテストを思い出した。次は俺の得意な生物ではないだろうか? モチベーションは一気に跳ね上がった。

(……まぁいい! 人間そんなものさ。それと同時に、人間は十人十色、得意分野があるだろう? たかだか一教科落としたくらいで気を落とすな、自分。次で挽回すればいい。捲土重来を期す! さぁ立ち上がろうではないか)

そう言う事だ、終わった事を悔んでいても仕方がないだろう。俺は気を取り直し、次のテストの準備をする事にした。少しでも気を紛らわしたかったと言うのが本音だったが、敢えてそこは置いておこうではないか。

 ——なにゆえ俺がここまでして今回のテストにこだわっているのか、それはこのテストが「突破条件」所謂「クラス分けテスト」だからだ。
我らが学校、周りの人間は「タワー」やら「社会の砦」やらと呼ぶが所詮学校。ただ普通と違う所と言えば進級するには教師から出される「条件」をこなさなければならないと言う事である。そしてこのテストを突破できなければまた改めて一年をやり直しさせられるシステムになっており、登録したら最後卒業まで此処の在校生として名を馳せると言うところだ。

この学校、俺達にとってはなんら普通の所であり、幼子は得てしてここへ通わされるのだが、そんな学校でも気になる噂の一つや二つは普通に存在する。
その中で今俺が関心を寄せている物と言えば「零組」なるものの存在だ。「零組」とはこの学校の最下級のクラスであり、裏のクラスである。ここには問題を抱えた者、反逆を志している者、勉学や義務をこなさない者等が選ばれ、選別されるクラスである。
まぁ言う所の問題クラスだ。選ばれた者はこの学校で類を得ない変人が集まると言われているらしい。

ただ本当に其れが存在しているのかどうかはまた別の話しになる。なぜならばこのクラスを体験した者や、見た事があるものがこの学校に存在しないからだ。「一人くらい居てもいいんじゃないか?」そう考えた者共が一斉捜索を始めたが真意の程は掴めなかった。
其れがどうこのテストに関係してくるのかと言うと、我らが二回生のこの年に零組へ分けられると言う噂が後を追ってある。このテストにより零組へと流されるものが出てくるのだ。

俺はそのような聞く限り心底面倒そうなクラスへ入りたくはなく、成績も程々を保っておきたいので今回はつい力んでしまっているのだ。

(そうだ……一教科落とした所で問題無い。全力を尽くせばそのカバーは十分できる。残りの教科に賭けようではないか)

 そうこうしている間に、次の授業を告げるチャイムが鳴った。生徒は慌ただしく教科書や筆記用具を確認し始めた。俺もそれに倣って何となく出しておいた教科書を鞄へ入れ、シャーペンの芯を確認する。芯がしっかり3本入っている事を確認していると、先生が入ってきた。

「おい席につけ。余計なものは片付けろよ〜」

入ってきたのは厳しいと評判の体育の先生だ。その強面の顔と、筋肉質な体型により一部ではヤのつく家系だとか言われている。……所詮噂だが。
個人的に気になる事と言えば、俺の名前と顔がばっちり覚えられていると言う謎すぎるオプション付きなことだ。宣言しよう、俺は何もしていない。
名前は確か——

(御嶽 道仁だったっけ? 他の生徒は奴に屈しているようだが俺はそう簡単には屈しぬぞ)

そんな感想に耽っていると前から答案用紙が流れてきた。慌てて受け取りの態勢を整える。

「はい」
「ありがとう」

そう短く返事をすると、前の席に座っている女の子は愛想よく笑った後「がんばろうね」なんて声をかけてくれた。
あまり話した事のない子だが、「目立つ子」だと言う事は知っている。なぜなら容姿端麗、才色兼備と謳われている稀に言ない優秀な生徒だからだ。その上コミュニケーション能力もたけており、いつも周りには人がいる。そんな生徒が目に入らぬわけがない。どれだけ嫌がろうが視界に入ってくるのは当然だろう。

「回ったかぁ? じゃあ始め。カンニングしたら殺すぞ、覚悟しろよ? じゃあ始め!」

物騒な発言で周りを凍らせてから先生は教卓の傍に座った。そのあまりに堂々とした態度に、歴代の武将を思い浮かべたのはきっと俺だけでは無いはずだ。もしくは小学校によくいるガキ大将。

(顔が怖い上脅し文句などさらりと言いやがる。勘弁してくれ。と言うか、教師としてどうなのだろうか、その発言は)

はぁっと息を吐いて俺は生物の問題を見た。知っている問題が多かったから多分今回はスラスラ解けるだろう。自分がリラックスしているのを感じ、ケアレスミスを無くすべく集中に集中を重ねた。



 そう、この時まではよかったのだ。俺はどうして、何故あのような事態を招いたのか、未だわからない。俺に隙は無かったはずだ。今現在になってまだ信じたくないが、現実は実に残酷である。