複雑・ファジー小説
- Re: 之は日常の延長線に或る【1/26更新】 ( No.40 )
- 日時: 2015/01/27 22:10
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: 4NhhdgqM)
肆 古人かく語りき
まぁ驚いた。そりゃそうだろう、之はまさに冷や汗もの。一体俺の心臓はどれぐらい耐久性があるのだろうか、疑問に思ってならない。そんな今日この頃。
御嶽道仁はフェンス内へ入るなり手前の生徒に一つの武器を渡した。それは映画などでよく見るサブマシンガンと言うものだろう。名称までは分からない。俺にはミリタリーの知識なんぞ「しったか」程度しか持ち合わせていないのだから。
ずっしりとするそれを御嶽は黙って配る。其々適当に並んでいたものだから、御嶽は舌打ちして整列させて、の所業だ。
そして俺の前まで来た。渡されたサブマシンガンをなめるように見た俺は、御嶽に問うてみた。
「之は如何した事でしょうか?」
「そう言う事だよ」
……との事だ。全く意味がわからない。そもそも質問の答えになっちゃいない。憤怒の思いで睨みつけている俺に同調するように、俺の隣に居た大きな男、不良らしきそいつが受け取ったサブマシンガンを片手で握りしめつつ御嶽を睨む。俺の睨みなんぞ地を這う猫の如し。奴の睨みは、それは、それは恐ろしかった。如何恐ろしいって、そりゃ蛇に睨まれた鼠、熊に対峙した猟師、またはそれの類に並ぶ恐ろしさである。
「おいお前、之はどういう意味を指す?」
低く唸る大狼(おおかみ)の様な声で、男はサブマシンガンを握りしめる。隣に立っているから聞こえる、ミシミシと言う音は恐ろしいほどに耳に鮮明だ。俺は隣をチラリと再び見やった。
(あぁこいつは知っている。確かナキリが言っていた……そうそう、タワーきっての不良の一人だろう)
確か名前は神宮寺 空悟。全長186余、齢18。だが、その見た目により大人にまで恐れられている一人だ。やはり……と言うか、やぱっり零組だったか。
神宮寺の噂は本当か嘘かわからないものが多い。ヤクザの親父がやっているラーメン屋で金を払わず集るヤクザの部下を殴り倒しただとか、道を阻んでいたダンプカーを真っ二つに割っただとか、後は奴に恨みのあるものが数十人集まって束になったが、病院送りにされただとか……まぁ明らかに不良だ。俺の人生にあまりかかわってほしくは無いなァ、と切実に思う。
ナキリの奴が顔見知りだとか言っていたから、まぁ何でもかんでも壊し、潰す奴ではない事は確かだろう。だからと言って警戒を怠るな、ナキリの奴はタワーの大半を攻略している。奴の知り合いの中でヤバそうな奴は数名いた。その中の一人では無い事を願うしかないと言う事だ。
あぁ、言えば奴はもう一つ有名な噂がある——なんでも「女」になると言う事だ。可笑しいのは分かっている。この推定180以上はあるだろう筋肉隆々の男がまさか、可憐を背負って生きているような女性になりますまい。
しかし事実は小説より奇なりと誰かが言った様に、不思議とは起こりうるものなのだろう。
例えばトイレから出てきた奴がサラサラの黒髪乙女になっていただとか、例えば不良に絡まれた奴を見ていると、不良が伏せた後みるみる間に、胸の豊潤な麗しき乙女になっただとか……まぁどれも之も馬鹿げているのだが一つ、真実に近しい情報を俺は持っている。
それは、俺がその場に「居合わせた」と言う事だ。