複雑・ファジー小説

Re: 之は日常の延長線に或る【第漆話更新】 ( No.61 )
日時: 2015/02/13 15:24
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: bVIgAYuV)

 朝食を済まし、外に出る。そうすると陽気で麗らかな光が視界いっぱいに広がる。

(気持ちの良い朝だ)

共に朝食を摂った花蓮達は、俺より先にさっさと行ってしまった。さて、改めて朝をやり直そう。
錆びかけたコンクリの廊下を歩いて外へ出る。見えてきた小さな庭ではいつもお世話になっている万年 寿栄さんがいつも通り掃除をしていた。挨拶をするため俺は立ち止まった。

「お早う御座います」
「あぁ、昶ちゃん。お早う。これ食べてみて、今年一、頑張って栽培した苺よ」

手渡された艶やかな紅はコロコロと掌を転がる。それに合わせて寿栄さんもコロコロ笑った。食欲をそそられるその色を一通り楽しんだ後、寿栄さんに向き直った。寿栄さんはいつも陽気な笑みを浮かべているちょっとお茶目な小母さんだ。俺の住んでいる「日々荘」の大家でもある。
「日々荘」と言うのはタワーの近くに或るこぢんまりとしたプレハブの様な建物である。寿栄さんが格安で貸し出す部屋は全て埋まっていて、此処にナキリの奴も住んでいる。

「苺って少し季節が早くありませんか?」
「うふふ、コレちょっと変わった苺でね、ナキリくんからもらったの。今の時期にできる不思議な甘い苺だからどうぞ〜って。いい子だわね、ナキリくん。今も二人で悪さをしているのかしら?」
「いえいえ、悪いのはナキリの奴だけで俺は至って真面目に日夜励んでおりますよ」
「そうかしら? 昨日は夜遊びしたらしいじゃない。花蓮さんが心配して夕方尋ねてきたわよ?」
「まさか……花蓮が? それは御迷惑をおかけしました」
「いいのよ、仲良いわねぇ。あら、そろそろ時間が……留まらせてごめんなさいね。行ってらっしゃい」

寿栄さんは腕に嵌めたピンク色の時計を覗きこみ、俺を送りだした。俺はもう一度頭を下げ、タワーへ歩く。
この日々荘からタワーまでは早くて10分で着く場所に或る。いつもはギリギリに出るのだが、今日は早く出てみた。なんとなく、だ。
早起きは三文の徳という言葉通り、何かいい事でも起きてくれれば嬉しいのだが、俺の経験上奇跡が起きない限り何も起こらないと言うのが残念ながら有力な説だった。





 朝早くだと言うのにタワーには疎らに人は居た。友人達と談笑しつつ喫茶店やらコンビニやらへと入っていく。
そんな中俺は御嶽を探して歩いていた。昨日の報告をするためだ。昨日見つけた計四名、内三名に連絡を入れろと伝えておいたのだが、ちゃんと連絡を入れているのかも聞きたい。

(御嶽はきっと会議室に居るだろう)

そう推測をつけ、タワーの東側にある会議室へと向かった。会議室と言うのはこのタワーに居る教師達がしょうもない議論をするために用意された部屋で、そこで毎朝顔を突き合わせ今後の予定を組みたてている。朝からご苦労な事だ。兎に角さっさと報告を済ませてしまおう。

会議室へ入っていくと予想通り御嶽は居た。この時間はもう会議は終わり、他の教師たちは資料を集めて各場所へ移動している。この時間と言いつつ、一体何時から無謀な議論を繰り広げているのか俺は知らない。

「おう春山、昨日連絡があった。三名、今日は出席するそうだ」
「え、あの変わり者の探偵紛いな女もでしょうか?」
「あぁ、珍しいだろ? 教室と生徒の顔を見ておきたいだとさ」
「はぁ」
「後残りの生徒だが今日も探してくれ。そうだな、朝早くから来たんだ、今から探せ。授業は昼からだぞ。昨日の場所で筋トレをする。覚えておけ」
「……えー……」
「つべこべ言うな、さっさと行け。遅れたらペナルティ付けるからな〜」

御嶽はそう言って資料をかき集め事務室の方へと歩きだした。
全く勝手な奴だ。一方的に要件を言うのはどうにかならんのか。失礼にあたると言う事を覚えておけばいい。
まぁそんな事言っても仕方ない。今日はタワーの中を隅から隅まで探してみるか……運がよければ誰か一人ぐらいはいるだろうさ。