複雑・ファジー小説

Re: 之は日常の延長線に或る【第漆話更新 2/16】 ( No.65 )
日時: 2015/02/21 22:14
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: bVIgAYuV)

捌 好事魔多し

 やっと昼、正午になった。そろそろ授業のため移動しなければならない。
さぁここで、困っている人が現れた場合数多の類人猿はどのような行動をとるだろう? 助けるか? 損してまでも手を差し伸べると言う類人猿は5割、冷酷無比に対応すると言う類人猿も5割……さて俺はどちらに属しているのだろう?——きっと、前者であろうと俺は予想した。

 タワーの廊下を歩いていると、向かい側から何やら人だかりが歩いてくる。ハイエナが肉に群がる様にそれは一人の人間に群がっている。群がっている人間は、見た所男も女も五分五分と言ったところだろう。

(一体どんな人間がたかられているのだろうか?)

興味が湧き人の群れに混ざってみる。そこに見えたものは金髪の……アホ毛? 視線を下へ移すと、ちゃんと人は居た。身長は150上ぐらいの中性的な顔を持つ……あぁ知っている。名前は確か「アップル・ガブリエル」聡明で優等生タイプの少年だ。確か年齢は14。
なにゆえ彼を存じているか、其れは昔少し手を貸した事があるからだ。少し前、男だという事実を知り、肩を落としたのは記憶に新しい。
手を貸した、それは彼がまだこのタワーに馴染んでいない時、男にナンパされていたからだ。迷惑そうな顔をしているのにも関わらず、ナンパ男はしつこく迫っていたので気になり少し助けてやった。

(その時の事をアップル・ガブリエルは覚えているか、いないか、きっと覚えてないだろうな)

……さて、俺はもう此処には用がない。さっさと森の奥に行かなければ御嶽にどやされてしまう。そう思い足を進めると誰かが服を引っ張る気配がした。

(何かに引っ掛かったのだろうか?)

それならば早急に解かねばと振り返ってみると、何とアップルが服を引っ張っているではないか。俺は驚き、集っていた周りも驚いた。

「えっと、覚えているかな? 前、助けてもらったアップル・ガブリエルって言うんだけど……春山君だよね?」
「あ、あぁ、覚えている。えぇっと……何用かな?」

動揺してキョロキョロしてしまう自分が何だか情けない。否、動揺する必要はないのだが、急に思いもよらぬ人に声をかけられると言うのは、どうも苦手なのだ。
そんな事より何より、アップルが声をかけた事で周りに集まっていた人たちの視線を一人占めしてしまう羽目になってしまった。

(まさか……新手の嫌がらせだろうか?)

俺は注目される事も苦手なのだが……その事を分かっているのかいないのか、アップルはニコッと愛らしい笑顔で話しかけてくる。

「一緒に教室移動しない? ちょっと君と話したいなって前から思っていて……」

そう言ってきた。さてさて、奴は一体? どういう風の吹き回しだろうか? 思案しつつも存外早くに俺は察した。今回は、俺にしてはなかなか間の冴えわたっている事。

(……あぁ人だかりが少々煩わしいのだろうか? 手を貸せ、そう言っているのだな)

心得た。ならば俺のかける言葉は一つと限られてくるだろう。

「場所は分かっているのか? まぁ、共に移動しよう」
「ありがとう、そう言ってもらえると助かるな。やっぱり頼りになるね? あ……でも……前の時も助けてもらって、今回も助けてもらうなんて、ちょっと厚かましいかな……?」
「そんな事は気にするな。一日一善というだろう。さ、行こう」

俺はさりげなく人をかき分けアップルだけを引き抜いた。小さくて軽い彼は簡単に引っ張られる。そのまま彼を引っ張る様に廊下を歩いて裏庭へ向かう。後ろでコソコソと何かを噂されるが、この際何でもいいだろう。
少し行った所で、アップルが小さな声で再び「ありがとう」と呟いた。困ったように笑う彼はきっと毎日うんざりするほど人に集られているのだろう。そう思うと少し彼に同情を寄せてしまう。まぁそんな事、彼が望んでいるかどうかと問われれば「知らぬ」の一言に尽きるのだが。