複雑・ファジー小説

Re: 之は日常の延長線に或る【第捌話更新 2/21】 ( No.69 )
日時: 2015/02/24 22:24
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: L1bEpBtf)

 裏庭の奥、フェンスで囲まれたそこに既に人は集まっていた。見た所、御嶽はまだ到着していないようだ。安心だ、八つ当たりを逃れた。ほっと肩で息をしつつ、隣のアップルを見た。何処となく彼もほっとしている様子で此方を下から窺う。

「……ところでお前も零組なのか?」
「そうだよ。名簿、見ていたのに気付かなかった?」
「あぁすまない、そう言えば見たような気がする。お前も何か仕出かしたのか? そんな風には見えないが」
「ううん、違うよ。僕はちょっと体質が問題だったんだ」
「体質? ……まぁいい、さっさと集まろう」

本当は気になるが今は時間が危うい。一歩遅くとも御嶽の奴はいちゃもんを付けてくるだろう。アップルを急かしてクラスの集まりへ顔を出す。おぉ、御嶽から聞いた通り西明寺兄妹も、さえちゃんと名乗る探偵モドキもクラスで居るじゃないか。驚きだ。
俺が軽く感動して辺りを見渡していると、早速西明寺兄弟は声をかけてきた。相変わらずミントか何か匂わして来そうなぐらい爽やかで、眩しく思える。

「この間は知らせてくれてありがとう。僕も、もなかも今日は出席する事にしたんだ。よろしく」
「あぁ、まぁ、連絡を入れるだけでよかったのだが……」
「いや、授業は一応見ておきたいからね。……もなかに無理はさせないけど」
「まだ小さいからな」
「それに、大切な僕の妹だからね。家元の仕事もあるし」

西明寺兄はそう言って笑った。地雷を踏んでいるようでなんだか気まずい。少し視線を外すと其れを感じ取ったのか、西明寺兄は「気にしてないよ」と小さな声で言った。
西明寺妹はと言うと、下でアップルを興味深そうにじっと見ている。アップルは何だか居心地が悪そうだが、助け船を出すべきだろうか? 其れとも、西明寺妹の行動を待つべきか……迷っているうちに西明寺兄がアップルに気付く。

「あれ、こっちの子は……?」
「あぁ、零組のアップル・ガブリエルと言う男だ。男、だぞ」

男を強調していってやると、西明寺兄妹は同じ様に少し目を見開いた。
妹まで驚くとは……なかなか興味深い。西明寺兄は少し視線を落として苦笑いを向けつつ、アップルに握手を求めた。それに応じたアップルはキラキラと憧れのものを見る様な目で西明寺兄を見ている。西明寺兄はその視線を意にも介さず、爽やかに世間話を始めた。

「男の子? へぇ、ごめんね、女の子かと思ったよ」
「ううん、よく間違えられるから気にしないで。それ、キモノ……着物だよね?いいなぁ! かっこいい。よくテレビで見るよ。僕も身長があったらな……」
「ふふ、アップル君は着物に興味あるの?」
「大いにあるよ! 僕、着物着たことないから、一度でいいから着てみたいなぁって思って。日本に来たら絶対見に行こうって決めてたんだけど……よくわからなくて、結局着れなかったんだ」
「じゃあサイズがあったらあげようか? 着つけもぜひ教えるよ」
「ほんと!? ありがとう! 似合うかなァ」

暫くそんな会話が続くだろうと思い、黙って話を聞いていたら横から誰かが突いてくる。少し放置していたが諦めるそぶりも見せず、煩わしくなり一体誰だろうと振り返るとさえがそこに居た。ニヤニヤと笑って、相変わらず腕に巻かれた分厚い包帯をちらつかせている。

(何時の間に……先ほどあちらで騒いで注目を集めていたと思ったのだが……)

さえの瞳のパープルが今日は深かった。何か興味深いものでも見つけたのだろうか? 何でもいいが、無駄に突くのは止めてほしい。先ほどからわき腹を痛い場所を重点的に狙われているような気がするのだが。一体何を考えているのか、分からない奴だ。

「どーも、春山昶くん? それとも昶って呼んでいい?」
「……なんでもいい。それよりちゃんと授業に来たのか」
「まーね、視察みたいなもん。でももう名簿見て皆の顔と名前覚えちゃったし、帰ろうかなって思っていた所」
「授業は?」
「始まんない、つまんない」
「もうすぐ来るから、少し忍耐力を鍛えるつもりで大人しくしてみたらどうだ?」

そう言ってやるとさえは「えー」と不満を訴える様な声を出し、考える様に何処かへ消えていった。一体、何を考えているのか……まぁ俺には関係のない事だろう。そう願っておこう。
そんな事より、先ほどから視線が痛い。次は一体誰が見ているのか、あたりを見渡すとそこには見知った双子が同じ表情で佇んでいた。

「西城双児か……一体如何した?」

声をかけると双子はピクリと反応した。姉の方は無表情だったが、妹の方は如何にも仕方なしと言った様子で近づいてくる。そう厭な顔をされてしまえば此方としても少し寂しく思うのだが……どうやら気にする様子は無さそうだ。無念。
西城妹は程良い距離でむんずと俺の前に立ち止まる。姉はその後ろで行方を見守っているようだ。真一文字に結ばれた口は、何かを決意するように開かれた。

「……お礼。この間……道教えてくれたから。別にあたしはアンタなんてどうでもいいけど、貸しとか思われるの嫌だから。……深い意味とか無いから、勘ぐらないでね!」

そう言って渡された可愛らしい小包。中にはこれまた可愛らしいクッキーが入っていた。
星やら熊やら、すべてこの双子の趣味だろうか? 素直じゃない所は何だか妹を彷彿させるようで勝手に親しみが湧いてきた。と言うか、小動物を愛でるような感覚に似通った所がある。……ロリコンじゃないぞ。小動物が好きなだけだ。特に猫が好きだ。

「別に何とも思ってない。だが有り難く頂こう」
「……ふん、これでチャラだから。行くよ、優奈」
「……うん。ありがとう」

双子はそう言ってパタパタと走って行く。タイミング良く御嶽も現れた。そろそろ授業が始まるらしい。アップルや西明寺兄妹もいつの間にか解散していた。俺も適当に集まる事にしよう。今日は筋トレと言っていた、危険な事はないだろう。しかし油断大敵だ。俺の第六感がそう告げている。