複雑・ファジー小説

Re: 之は日常の延長線に或る【第捌話更新 2/24】 ( No.72 )
日時: 2015/03/08 22:35
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: L1bEpBtf)

玖 大欲は無欲に似たり

 話しは有耶無耶に、適当に御嶽に挨拶をして俺はフェンスを出た。森を抜けてタワーの裏から、エレベーターは少し歩かなければならないから階段で二階まで一気に登る。
筋トレの後だと少し辛かったが、まぁこの際どうせ明日には筋肉痛と言う恐ろしいものが襲ってきているのだから問題ない。
道を歩く人にミステリーサークルの部屋を聞くと、廊下を真っ直ぐ歩いた一番奥の日当たりの悪い場所だと言う。何と陰気な事か。……まぁ良い。部外者の俺がとやかく言うのはお門違いだろう。

古い木造の扉の前、ミステリーサークルと汚い字で書かれた札を確認し、俺は勢いよくドアノブを捻った。建てつけが悪いのか、ガタンと外れるような音がした後突っかかりつつもその扉は開いた。ナキリは一体どこまで把握しているのか、できれば説明は割愛させてほしい所だ。

扉を開けて真っ先に飛び込んできたホワイトボード。議題は「人は何故弱きものを挫くのか」その下に小さく「提案者松崎 祐造」と書かれている。この議題はミステリーか否かと聞かれれば微妙な所であるが、まぁいい。取り敢えずナキリの姿をと探すと、奥に居るではないか。どうにか間に合ったらしい。
さっさとナキリの前まで歩いて行き、周りの有象無象を蹴散ら真正面に立つ。ナキリは面倒な事を持ってきたと察したのか、ニヤリと笑って軽い挨拶を送ってきた。

「ナキリ、お前に聞きたい事がある。共に来い」
「いやぁ今サークル活動中ですぜ、先輩。また今度というわけにはいかないですかな?」
「当たり前だ。サークルは逃げない、安心しろ」
「うーん、参ったな」

ナキリはそう言いながら立ち上がり、サークル仲間に途中退場を詫びてから黙ってついてくる。予想通りの反応だ。
廊下に出た後、ナキリは興味津々と言った様子で身を乗り出してきた。

「今度は一体どうしたって言うんですか」
「そうだな……単刀直入に言おう、俺の『能力』を探す。お前がキーだと御嶽が言っていた」

俺の言葉に首を捻ったナキリは、数秒後思い当たった様に手を打った。俺が畳みかける様に簡略化した説明すると合点が要ったのか、わざとらしく「あぁ」なんて呟いて話しを始めた。

「それは良いですけど、タダでって訳にはいかないですぜ。なんて言ったっておいらの日課を返上したんだから、それなりの代わりを用意しなければ動きたくないね」
「ふん、そんな事だろうと思ったさ。何をすればいい?」
「この間渡した紙の一番上、パンツ小僧と書かれていたでしょう? その人をおいらの前に連れてきてほしいな。漫画を貸して返ってきてないんですよ〜簡単でしょう?」

ナキリはそう言ってニコッと笑った。あまりにおぞましい笑顔だ。目に毒とはこの事か。
それより参ったな、奴はまだ見つけていない。探している人ほど見つからない。求めてない時にひょっこり現れるものかと考えていたせいか、当然何もしていない。
……面倒な事になった。取り敢えずナキリには返事をして、2時間後いつもの喫茶店で待ち合わせに設定する。それまでに見つけなければ。