複雑・ファジー小説

Re: インビジブル 【オリキャラ募集中】 ( No.9 )
日時: 2015/03/29 04:27
名前: 雛 ◆iHzSirMTQE (ID: Bj/lm3Yj)

「それなら御心配なく」
千代はそういうと、どこかから良助の靴を出して彼に渡した。
良助はそれを見て驚き、『どうして』と言葉を発した。
「ちょっとした手品ですよ」
千代はその問いに曖昧に答えると、自分の下駄箱から靴を出し履き替える。
良助は渡された自分の靴を見て、混乱しながらも自分も靴を履き替える。
 女子の群れを避け、校舎から出ると運動部の先輩達の元気な声が聞こえてきた。
新入生が遠目からそれを見学しており、離れたところには、また別の部活が活動していた。
「そう言えば瀬野さんって……何か部活入るの?」
「んー……まだ決めてませんね」
他の人よりは会話は多いものの、まだ出会ったばかりで良助は遠慮気味に千代に問い掛ける。
彼女はその問いに、少し考えながら言う。
千代は前期の面接時では、一応記憶に残っていた部を挙げて意欲を示していたが実際はその部に興味はなく、部は入らないでおこうかと考えていた。
そんな千代の答えに、良助は安心したように肩の力を抜いた。
「……もしかして鈴木君も、まだ決まってないんですか?」
彼の様子を見て察した千代はそう問い、良助な彼女の問いに苦笑いして小さく頷いた。
彼の方は入りたい部活は幾つかあるものの、自分の能力のことや入部後のことが不安で中々入る気になれない様子。
「まあ、そう思い詰めなくても大丈夫だと思いますよ。自分のやりたいことが出来たら、それをすれば良いだけのことですから」
千代は安心させるように微笑みそういうと、校門を抜けて右を向く。
「あ、瀬野さんは家あっちなんだね」
「はい。それではまた」
「うん……」
グランドの土を踏む音から、コンクリートを踏む固い音に変わる。
良助は少し名残惜しそうにしながらそういい、千代と別れて帰路につく。

 高校から大分歩き家まで後少しの所、路地裏から小さな悲鳴が聞こえて良助は慌ててそこへ向かう。
再び悲鳴が聞こえることはなく、静かな路地裏に良助の足音だけが響く。
「っ……」
鉄の臭いが充満したそこには、赤い液体が流れていた。
それを目で追っていくと首のなくなった体が一つ、地面に倒れていた。
良助はその、初めて見た死体に声にならない悲鳴を上げつつ恐る恐る前にある気配の主へと目を移す。
「おや、見られちゃったか」
彼の目前には、返り血を浴びた男が優しい笑みを浮かべていた。
男は動じることなく、頬についた血を拭き取り良助を見据える。
「面白い子だ」
彼は微笑むと、恐れを忘れて好奇の目で自分を見つめる良助に口角を上げる。