複雑・ファジー小説

Re: 【求:特定登場人物の情報】妖王の戴冠式【1/11更新】 ( No.12 )
日時: 2015/01/12 22:04
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: Ru7e1uoX)

 さて、休憩はこんくらいで続きに行こうか。休憩にしては長すぎる? 勘弁してよ、わっちの時間感覚はかなり乱れてるからさ。ま、こんな無駄話は短くまとめて本題に入ろうか。
 なんせ、雪女たちの初陣が迫ってるからね。



「思い知ったかしら? あらごめんなさい、もう聞こえてないわよね」

 いつも通り、自らの術で仕留めた手応えを確かに感じたので、彼女は勝ち誇ったように夜行へと告げる。夜行はさっきから指一本とてまともに動かしていなかった。その事と、彼女の本来の氷のあまりの純度の高さから錯覚を起こしていた。
 それはつまり、夜行が本当は凍っていないのに凍りついたと勘違いしていたという事だ。そしてもう一つ、彼女は気付いていない。今や、彼女の力が全て失われてしまった事に。

「さて、契約者をそろそろ探さないといけないわね。どうせならイタコあたりが良いんだけど……どこを探せば良いのかしら」
「それなら北上して東北に行けよ、確かあそこが本場だから」
「そう、ありがとう。……って嘘! 何で動いてるのよ!」

 さっきまでピクリとも動いていなかった夜行が目を離した隙に動き始めた事に彼女は面食らった。確実に凍らせたと思ったはずなのに、どうして動けるのか理解できず、思わず後ずさった。得体の知れない何かに感じる恐怖、なぜこの男は身動きが取れるのか、動揺した頭では何も考えられなかった。
 しかしそれは、彼女に限った話ではなかった。実のところ、夜行も今何が起こったのかさっぱり理解していなかった。つい今しがた、確かに自分の体に異変を感じたはずだ。突然司会の中の靄が晴れて頭が整然と調えられたような開放感。そして各所から感じられた、気配ともとれる違和感のような不思議な感覚。
 さっきは確実に、その中で一際濃い存在感を目の前の女性は放っていた。それなのに今となっては、何も感じられない。

「で、お前今何やったの?」
「あんたを凍らせようと妖術を使ったの。それなのに何でこんな……」

 どうやら、まだ彼女はこのような事を言い続けるようだと、一旦冷静に夜行は考える。少し頭が可笑しい女の戯言、そう捉えることもできなくはない。しかし、先程自分の中に巣食ったあの感覚がやけに引っ掛かる。地中から、空の上から、そして目の前の女から感じた、謂わば『尋常ならざる気配』。あれがもしも、妖怪などの発するものなのだとしたら。そう思うと、先刻確かに捉えた強大な力、それと今の女の発言。やはり自分の捉えた気配というのは人ならざる者の発するエネルギーのようなものだとすると、辻褄があう。
 だが、目の前の女はなぜその力を正常に扱えなかったのか。それだけではない、なぜこの女からは、今となってはその力の片鱗すら感じとれないのか。自分のさっきの感覚は文字通り一瞬だけのものだったのかと考えるが、集中してみると随所から同じような気配は感じ取れる。この感覚は本物だろうと他ならぬ自分自身の直感が告げている。

「何さっきから黙りこんでるのよ、何か言いなさい」
「……なんでイタコなんて探してるんだ」
「はぁ? 何であなたなんかにそんな事を教えてあげないといけない訳?」
「良いから、早く答えろ」

 強めに命令すると、抵抗するのも時間の無駄と考えたのか、すぐに自称雪女は折れた。さっさとイタコを探そうというのがおそらく本音であろう、この際疑問は考えずに目の前の男、つまりは夜行にこだわらない方が楽だと判断したのだろうか。

「どうせ信じないでしょうけど、次世代の妖の王様を決めるために、後継者同士の争いをしているの。候補は数百から数千人、お互いその力を競いあって戦いで優劣を決める。最後に立っていたのが次の王よ」
「で、お前も候補か。イタコを探す意味は?」
「やけに素直に信じるわね、逆に気持ち悪いわよ」

 五月蝿いと言わんばかりに夜行は顔をしかめる。一矢報いてやった事にほくそ笑むが、雪女は彼の真意が掴めないまま説明を続ける。

「私たちがそのまま戦うとあまりの力の強さに天変地異が起こってしまう。だからその力を契約者の人間、あるいは人として生きている半妖に力を預けるの。人間の器だと妖怪の体より出力が抑えられるから」

 タンクとしては人間は十分機能するのだが、中身を出す水道としては劣る。そのため妖術の規模が自然と小さくなり、比較的周囲に影響を与えずに暴れることができるという訳だ。

「ただ、イタコや巫女、占い師みたいな本職霊能力者はその力を引き出しやすいの。ただ単に霊感があるだけでもかなり違ってくるわ。契約した二人の事を私たちはつがいと呼んでいて、つがいのそれぞれが優れた力を持っている事が勝利への近道ね」
「だからイタコを探してたのか」

 その通りだと彼女は頷く。となると、さっきから薄々と感づいていた予想が夜行の中で確信に変わった。と同時に、彼女にそれを告げるのがかなりハードルが高いことに気づく。相手からこちらは嫌われていて、こちらも相手に良い印象は抱いていない。夜行の本音はこんなの願い下げ、である。
 だが、言わねば何も始まらない。唇は重たく感じられたが、我慢して彼は口を開いた。

「多分さっき、俺とお前がつがいになったんだと思う」
「あー、その可能性はあるわ。だって契約の方法は相手に自分の妖力を注ぎ込むことだ……し……えっ?」

 その瞬間、ようやく彼女は自分の目の前で起きた異変の正体を飲み込めたようだ。先程、夜行を氷付けにしてやろうと自分の術を使ったその時、何らかの手違いで夜行の体内に自分の力を注ぎ込んでしまった。その結果、二人が契約してしまった。

「待って待っておかしいわ! 契約した事はないけど、私は今あなたを外から凍てつかせようとしたはずよ。それなら契約にならないはず……何でこんな事になるのよ」
「いやいや、文句言いたいのはこっちだふざけんな。何でそんなヤバそうなのに巻き込まれないといけないんだよ」
「黙りなさい! 私だってあんたみたいな口うるさい男なんて願い下げよ」

 でも仕方がないだろう、そう言って夜行は掌を近くの電柱へと向けた。初めて手に掴んだ能力だというのに、使い方が手に取るように分かる。やり方さえ覚えれば縄跳びをするような要領で簡単にできる。意識を集中させて、冷気の指向性を定め、力を吐き出す。掌を向けた先にある電柱に巻かれた黒と黄色の縞のラバーが易々と凍てついた。

「嘘でしょ……そうだ、一回までなら契約破棄ができたはず……」

 何かを思い起こしたように、夜行をそっちのけでぶつぶつと呪文を唱える。しかし、その直後の落ち込んだ表情が芳しくない結果を物語っていた。

「破棄できない……どうして?」
「何なんだよこれ、お前マジで歩く冷蔵庫だったの?」
「その愉快な言い方は止めなさい!」




 ギャーギャーギャーギャーと喚くこと喚くこと。五月蝿いったらありゃしないよ。そんなんだから敵にもすぐに見つかるってもんさね。キリが良いからもう一度休憩を挟もうかね。
 何だかこの二人が上手くやっていけるかわっちも心配になってきたよ。こんな事で近くにいる他の候補者に勝てるんだろうかねぇ。
 まあこの二人、一人一人は中々大したもんだから、今後の成長に期待するしかないね。ただ、今後があれば、って感じだけどさ。
 ちょっくら酒でも煽りながら休憩するよ、あんたもどうだい? 呑まないならまた時間を開けてからやっておいで、わっちの晩酌は長いから、さ。