複雑・ファジー小説
- Re: Sky High-いつか地上の自由を得よ- ( No.2 )
- 日時: 2015/02/03 23:14
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: zCMKRHtr)
銀色の髪を翻し、硝煙漂う戦場を舞う。
蒼穹の瞳に宿した炎は、敵を焦がす。
裏切りと絶望の過去を辿って、凄惨な戦いへと身を投じた彼女の名は。
「ユフィーリア!!」
屍をうず高く積んだ山に、彼女はちょこんと腰かけていた。
黒い外套は風になびき、下に着込んだ黒の詰襟は血に汚れている個所がある。平たい帽子から流れる銀色の髪もまた、赤く染まっていた。
帽子の下にある顔は、息を呑むほど整えられている。さながら人形のように怜悧で生気のない印象を与える。長い銀色の睫毛で縁どられた青い双眸は、昏い光を湛えていた。
ぞっとするほど冷えた青い瞳を、声の方へ向ける。
「こんなところにいたんだ。探したよ」
「……」
屍の山のふもとに駆け寄ってきたのは、赤い髪の青年だった。
灰色のロングコートに、血に塗れた軍靴。両手は真っ黒な手袋で覆われている。顔立ちは精悍で、だがどこか頼りなさも入り混じっている。
少し垂れさがった翡翠色の瞳と、少女の青い双眸がかち合った。すぐに目を逸らしたのは、少女の方だったが。
「……戻ろう。ここにはもう、君の敵はいないよ」
「……」
赤い髪の青年が声をかければ、少女は無言で応えた。ただ、無視をしたのではなく、きちんと聞いていたようだ。屍の山から飛び降り、相棒である身長を超えるほど長い刀を肩に担いだ。
少女は青年の脇を通り抜け、戦場へと背を向けた。何も言わぬ少女へ、青年は話しかける。
「またずいぶんと暴れたね」
「……」
「君は一体、どれぐらい殺したの? 敵を殺して殺して、それほど自由になりたいのかい?」
「…………」
「それとも、何か恨みでもあるのかな? 人間に対する恨みみたいなものが——」
少女はピタリと歩みを止めた。
彼女の後ろをついていくように歩いていた青年も、少女に合わせて歩を止める。
くるりと青年へ振り返った少女の瞳は、殺気に満ちていた。その殺気を感じ取った青年は、自然と身構えてしまう。
近づけば殺される。青年はそう悟った。
「鬱陶しい」
ここにきて、少女の初めての台詞。鈴の音のように上品で凛としたその声は、青年が邪魔だと告げていた。
青年は何も言えなかった。何かをしゃべろうとしたが、少女の空気がそれを許さなかった。
少女は再び歩き出す。今度は青年を置いて、血に濡れた地面を踏みしめて去っていく。
その場に残された青年は、消えゆく少女の背中をただ見守ることしかできなかった。