複雑・ファジー小説
- 第1話「勇者はヘタレなアイツ」 ( No.1 )
- 日時: 2015/02/15 17:23
- 名前: tenpon (ID: X96rB3AK)
いったい誰が予想できただろうか。
「よいか、お前はこれから救世主となり、魔王を討伐する旅に出るのだ」
WHAT?!
そんな事を俺に言うのはこの国の王様。つまり国のトップ。おいおいおい、大丈夫か?この国は。え?もしかして俺に言ってんの?マジで?
自慢じゃないが、俺のヘタレっぷりは群を抜いて突き抜けちゃうくらいヘタレだ。特技逃げ足。これを言えば察せられるはずだ。心配のあまり眩暈がしてきた。さらに言うならば、ズキズキとこめかみが痛む。
「はぁ?そこのハイスペックさんに頼めば?」
と隣の幼馴染を指さし即答した俺は悪くないはずだ。だって隣にいるアイツはイケメンで大抵の事はそつなくこなせるハイスペックさんですよ。さらに言うなればこの国で有名な実力派ハンター。その実力はトップクラスだ。
ヘタレに頼むよりかはマシだろう。だって世界の危機ですよ?それをザ・ヘタレ、キングオブ逃げ足たる俺に頼むのはお門違いだろう。
「いや……それがお主に頼むより他に手段がないのだ。これは古来から決められていた、言わば運命のようなものだからな」
そう重々しく俺に告げる王様。その表情は悲壮感に溢れ、とても冗談に見えない。まるでこの世の終わりを見るようなお顔だ。
え?これマジな感じ?しかも拒否不可?
俺は青ざめた顔で王様を見た。何故なら事の重大性に今更ながらに思い知ったからだ。王様は「諦めて使命を果たしてくれ、若者よ」と言わんばかりにゆっくりと頷く。やべぇ、目は口ほどにモノを言うって本当だったんだな。俺目で会話しちゃったよ。
どうやら俺は勇者(救世主)を目指す旅に出るらしい。しかもラスボス(仮)は魔王とな。
Oh……なんてこったい。
- 02 ( No.2 )
- 日時: 2015/02/08 17:55
- 名前: tenpon (ID: XmoVN9aM)
話をまとめよう。
俺はレオバルド・シュバルツェン。この名前で連想されるのはいかつい屈強な男か、勇ましい男かだろう。ところがどっこい、俺は自分でいうのもアレだが、勇ましくも、ましてや屈強な大男でもない。普通の平凡な男である。職業はトレジャーハンター。そう、お宝を捜し求めてどこまでもがモットーなご職業である。
ま。自分でも似合わないことは分かっている。だから、名前は“レオ”とだけ名乗るし、仕事は相棒兼幼馴染のハイスペックさんに頼りきりである。え?そこは頼っちゃ駄目だろうって?ははっ、生きるのに手段は選んでられねーよ。選んでたらデットエンドだわ。物理的な意味で。
いやだって信じられますか。この世界は街や、整備された街道から出たらやれ山賊盗賊は出るわ、モンスターさんは襲い掛かるわで大変なんですよ。しかもエンカウント率は素晴らしく高いと来たもんだ。え?お前ら連携組んでんの?って言う位連続でと言うのもざらである。
それもこれも、大昔に魔王とか言うラスボスが君臨していたせいである。そいつのせいでモンスターは湧いて出るわ、土地が瘴気にやられ痩せ衰えるわで大変だったそうな。そんな中救世主が現れる。後に勇者とか英雄王と呼ばれるお人で何を隠そう、この聖王国を建国した人だ。その救世主様は三人の仲間と共に旅に出た。“魔王討伐”の旅である。その旅については様々な逸話として、伝説として残っているので後にしよう。兎に角、魔王を討伐しようとした勇者一行の旅の結末は魔王を封印する事で幕引きとなった。何故英雄王は魔王を倒さなかったのか?それとも倒せなかったのかはそれこそ歴史の謎として残っている。それでも英雄王は死ぬ間際こう言ったそうだ。
「魔王の封印が解かれる時、次の救世主は現れる。その者によって世界は再び救われる」
と。あ、でも心配すんなよ?英雄王さんはちゃんと長生きしたからな?この物語の主成分にシリアスはあんま含まれてないから。なんせ主人公の俺が願っているからな!
メタ発げ……ゲフンゲフン。さて本題に移ろう。この英雄王さん、はた迷惑な事に次の救世主についてかなり細かく予言していたそうだ。
一つ、彼の者の髪は緋色である。一つ、彼の者の瞳は琥珀の輝きを持っている。一つ、彼の者は過去を失っている。一つ、彼の者の名前は“レオバルド・シュバルツェン”である。
おいぃいいいい!! これ名指しじゃね?え、なに?俺英雄王様に指名されちゃってんの?なんで生まれる前に訳わからん因縁つけられなきゃいけないのよ。有り得ない。
何故なら英雄王が生きていた時代は500年も前の話だからだ。
怖い。チートってまじ怖い。ちびるわ。しかもイケメンだったって話じゃないか。どこぞのハイスペックさんを思い出すわ。HS(ハイスペック)イケメン爆発しろ!
ちなみに次の救世主についての情報は王家の口伝によって伝えられている。言わばこの国の極秘の極みである。最重要国家機密とも言うが。やべぇ、俺いつの間にそんなに偉くなったよ?膝がガックガクに笑うわ。
国王からそんな秘密を暴露され、世界を救えと言われた。しかも、拒否権はない感じ。もしも俺が一言否を唱えれば俺の首が胴体とおさらばするのは容易いだろう。うわぁー、これ人生最大の修羅場じゃね?
俺が冷や汗をかいて固まっていると隣にいる幼馴染がそっと俺に言葉を囁いた。
「まぁ、難しく考える必要はないよ。世界を救うって言ってもすぐにじゃないし。それに僕もその旅に同行するから」
まじか。ハイスペックさん、もとい、ハル・アルゼ様。おお、救いの神に見えるぜ。その綺麗な微笑みとかな。まぁ同性だからときめく筈はなく、これだからイケメンはと思うだけだが。
「だから……」
ハルはそこで言葉を切る。そしてその青い瞳で俺を真摯に見ると、
「だからレオはそんな不安がらなくていいよ。レオくらいは僕が守れる」
珍しいくらい真剣に言ってきた。ちなみに俺の心の中はイッケメーンッ!! まじハルってイケメンだなおいッ。さっき爆発しろとか思ってごめん。と若干荒ぶった。
そう、俺の幼馴染は基本ハイスペックである。ハル・アルゼ。その名はこの聖王国では有名だ。凄腕のハンター。「孤高の英雄」の二つ名を持つ。まぁそこら辺の説明はおいおいやろうと思う。金髪碧眼の青年、整ったその顔はどことなく品を感じる。城下町の年頃の娘達からは“王子”とか“貴公子”とか呼ばれている。まぁ、あの綺麗な顔なら納得か。初めて聞いた時は笑ってハルに怒られたけど。あの目は怖かった……。アイツなんでもそつなく出来るからな、怒ると怖いのよまじで。
「レオ?」
俺が固まったままなのを訝しげに見るハル。何その頭の可哀そうな奴を見る目は。やめて。
まぁ冗談はそのくらいにして、
「いや……その。ありがとな、ハル」
「気にしないで。レオのトラブルに巻き込まれるのは慣れているからね。今更さ」
「酷いな、おい。ま、否定はしない」
俺の苦笑交じりの礼をハルは皮肉で返す。にこやかな微笑みが微妙に心に刺さるよ。俺は苦笑しながら肩をすくめるしかなかった。
「話はまとまったかね?」
少し温度の低い王の声が俺たちに向けられる。
- 03 ( No.3 )
- 日時: 2015/02/08 17:59
- 名前: tenpon (ID: XmoVN9aM)
「すっすみませんッ」
すぐに平伏すチキンな俺。おい見ろよ、周りの人達(主に衛兵さん達の)の視線を。アレ完全に「なんだこのヘタレは」と語っているぞ。合ってますがね!
「大丈夫です。陛下。すぐにでも魔王討伐の旅へ行きます。もちろん僕も旅に同行します」
そう凛とした声で宣言するのハル。そしてついでと言わんばかりに俺に手を差し伸べる。「何してんの?」と視線で俺に問うハルに俺は渇いた笑いしか返せない。くっそ、スペックの違いが痛いぜ。
「おお、そうか。『孤高の英雄』と讃えられるお主が旅に同行してくれるとは心強い。頼むぞ」
「光栄です。ですが、僕は讃えられる程ではありませんよ」
「はっはっは。謙遜するでない。お主の実力はこの国王の耳にも届くぐらいだ。自信を持つが良い」
朗らかに笑う王と爽やかな笑みを浮かべるハル。え?何?俺空気なの?
「では準備が出来次第、出発してもらおう。していつ出発するのかね?」
わぉ。これは遠回しの圧力ですねわかります。流石王様威圧感半端ないッス。
「そうですね。明日と言いたいのですが、残念ながらギルドの方に報告と引き継ぎがありますから一週間後ですね」
そして流石ハル。王様の遠回しの圧力なんてどこ吹く風、涼しくさらりと告げる。すげーよお前、俺なんて首を縦に振るしか思いつけないわ。
「うむぅ。そうか。やはりお主ほどの者が抜けるというのはギルドにとっても大きな痛手になるだろうからな」
「いえ、完全に抜ける訳ではないので大丈夫ですよ」
心配そうな王の言葉にハルは苦笑気味に答える。
この世界には『ギルド』と呼ばれる組織が存在する。それは人々の助けになる存在として多くの人に支持されている。依頼は魔物討伐から猫探しまで幅広い。ギルドに所属するとギルドランクがつけられて、A〜Fが一般的なランクでAが高いランクでFが一番低くなる。Aから上がマスターランクと称される物だ。S、SSとなっている。Sの上がSSになる訳だが、このSSランク世界で5人しかいない。その内の一人がハルだ。まじアイツHS!!(ギリィ
ま、SSランクになると二つ名(笑)とか名付けられるから羨ましくないけど。ちなみにハルの二つ名は『孤高の英雄』だ。アイツの戦闘スタイルに由来する。破壊神とも陰で言われている。これでお察し頂きたい。
「って事でレオ、逃げないでくださいね?」
「ヒィッ!?」
意識を飛ばしていたら破壊神もといハルに笑顔で脅される。俺は短く悲鳴を上げてしまった。もう周り(衛兵さん達等)の視線は呆れを通り越してどこか生暖かい。おいやめろその可哀そうな奴を見る目俺の精神崩壊に貢献されるから。
「なんで悲鳴?まぁ、前歴があるとアレですね。お仕置きも思い出されますか」
「ぁああ。やめろしマジで思い出すから」
ハルの穏やかな声に対して俺はうめき声に近い声を上げてしまう。あれはやばかった。思い出すだけでも背筋が寒くなる。いつもの如くハルの任務に巻き込まれた俺は嫌すぎてほっぽり出した過去がある。やったのはその一度だけだ。だって危険度SSランク(一番高いランク)に同行っておれ死んじゃう。その時のお仕置きという名目の拷問は口に出来ない。ハルまじ怖い。
「あはは、当然です」
「え?」
ハルがにこにこと爽やかな笑みとセットで俺にとって衝撃の一言を告げる。
「では陛下。僕たちは準備があるのでこれで失礼します。ほら、レオ行くよ」
「え?ええ?! ちょッお前あの時のアレが確信犯だと……?」
ハルが困惑する俺の腕を手に取り引きずっていく。その際の王の視線は呆れとこいつに任せて大丈夫なんだろうかという心配に溢れていた。大丈夫、俺その気持ち分かるよ。なんたって本人が一番心配してんだからな!マジで俺大丈夫か?
話をまとめられなかったな。まぁ短く要約すると、
こうしてヘタレ(俺)が勇者に選ばれた。これから行くは魔王討伐の旅。HS幼馴染が旅に同行してくれるが大丈夫か俺?
になる。まぁぶっちゃけ、
「どうしてこうなったーッ!! マジで無理無理無理。魔王とかないわー死亡フラグなんて目じゃないね!死亡確定だねッまじおれどんまい」
こうやって俺は早口で喚くしかない。今なら人生について嘆いて涙出来るよ。
「うるさい」
「げふッ」
ハルの鋭いみぞおちへの一撃により俺の意識は暗闇へと落ちた。
もう一度言おう。
どうしてこうなった、と。