複雑・ファジー小説

第3話「旅の最初は人助けを」 ( No.11 )
日時: 2015/02/10 20:06
名前: tenpon (ID: iPZjAWe2)



 なんで勇者って人助けをするのが決まりになっているんだろうね?むしろ俺が助けを呼びたい気分だよ。


 という訳でどもどもー。チートなお姫様を負かしたら仲間になっちゃって自分の存在意義が危うくなっている気がするレオバルド・シュバルツェンです。いやぁ、旅の仲間が強いってアレだね。複雑な気持ちだね……!俺お荷物決定じゃん。

 俺らは今王都から程近い小さな町に滞在している。温かなベットが無性に恋しくなったのだ。で、ここからが本題である。あのお姫様が人助けを買って出たのだ……!びっくりである。

「あのすみません、旅のお方。依頼を受けていただけませんか?」

 そう俺達に声をかけてきた素朴な雰囲気を持つ少女。彼女の話を詳しく聞くとこんな感じである。

 “最近洞窟のモンスターが凶暴化して街の近くをうろつくようになったので助けて欲しい”と。

 ティルカ姫はそれに二つ返事で了承した。心なしか目がキラキラと輝いていた気がする。翻訳するとやっと救世主らしいことが出来るわ、であろうか。

 だかしかしである。このお姫様は大事なことを忘れている。報酬の交渉を忘れているのである。コレを忘れると下手をするとタダ働きになる事もあるのだ。

 それをティルカ姫に言ったら蔑むような視線を頂戴した。解せぬ。

 ハルに泣きつくと、「まぁ、後でも大丈夫でしょう」と頭を撫でられた。優しいなお前。

 まだ少し不満があったのでぶーたれているとお姫様のハイキックが俺の頭に直撃した。それは見事に無駄のない蹴りでしたよ、ええ。













 今、俺の目の前に地獄の門が口を開いている。ポッカリと空いた黒い空間は禍々しい雰囲気を醸し出している。

「ねぇ、顔色悪いわよ?具合でも悪いのかしら」

 俺の顔色を心配するティルカ姫。今の俺の顔色はさぞや青かろう。自覚している。

「姫様、気にしなくていいんですよ。アレはいつもの事ですから」

「いつもの事?」

 ハルの言葉にティルカ姫は俺に視線を向ける。ちなみにその温度は限りなく低い。俺泣きそう。

 そう、俺にとって洞窟の入口は地獄の門に等しい。あの逃げ場が少ない場所にモンスターがうようよしていると考えるだけで鳥肌が立つのだ。

「うっせー。何が楽しくてわざわざ洞窟までモンスター退治に行かなくっちゃいけないんデスカー!マジイミフだ」

「落ち着け」

 涙目で喚く俺にハルは短く言い捨て俺の鳩尾に手刀を入れる。グサッと刺さる手に俺は涙を流した。ついでに蹲《うずくま》り悶《もだ》える。マジ痛いハルの鬼畜め。

「さ、サクッと行きますか」

 俺の襟首を引っ掴み、ハルは何事もなかったかのように進み始める。

「えッ?! なんなのそのノリは?え?」

 俺とハルのバイオレンスなやりとりにティルカ姫は困惑しオロオロとした。そのせいでツッコミきれていない。フッ……まだまだ青いな。

 心の中でカッコつけた所で目の前にポッカリと口を開けた黒い空間は変わらない。所でハルさん、そろそろ引きずって行くのやめてもらえないですかね。そこそこのスピードで石とか岩とかの上を引きずられるのは痛いんだけど。マジで。

 俺はハルの手刀のダメージで悶えながら洞窟の中に引きずられて行く。








02 ( No.12 )
日時: 2015/02/11 18:31
名前: tenpon ◆fQLBB99yzY (ID: iPZjAWe2)
参照: 今回からトリップをつけさせて頂きます




 この世の中は全く以てけしからんと思う。

「なんでだぁああああああ!!」

「うるさくってよ。このとさか野郎ッ」

「本当に静かにして欲しいですね。……このとさか野郎」

 大声で絶叫する俺に冷たくツッコむチートコンビ。しかし、これは俺が可笑しい訳じゃない。つか何なんだよこの洞窟。さっきからトラップ、罠、トラップ以下エンドレス。トラップの宝石箱やぁと某それがしさんのようにコメントしたくもなるもんだ。それを涼しく避け汗一つ掻かない二人に俺はある意味怖くなった。ハルとティルカ姫のコンビはホントにチートの名に相応しい。

「俺のッ髪色がそんなに不満かいッ!!」

 俺は息を乱し汗をヒイヒイ掻きながら二人にツッコミをいれる。今紙一重で矢を避けたところだ。俺の髪色は緋色、光のあたり具合でオレンジや赤にも見える派手な髪だ。ソレを整えずボサボサのまま伸ばし後ろで一つに結わえてある。

「いやいや、鶏頭なレオによくお似合いの髪色だと思いますよ」

「あら。それには同意だわ」

 ハルは斜め前の壁から飛び出すナイフを見もせずに頭を横に動かすだけで避けた。ティルカ姫は上から飛び出た岩の塊を魔力の放出で砕く。両者とも笑み又は余裕の表情だ。息一つ乱さない。

「おい、ハル。それは俺の頭の中身が鶏並みだという意味か、なぁ!!」

 怒り心頭の俺は深く考えずにハルに詰め寄る。

 カチリ。

 ん?なんか踏んだようなと俺が首を傾げると同時に、

 ゴゴゴゴゴゴ、と迫力のある音が聞こえてくる。あ、これ詰んだわ。

 音の聞こえる方向へと俺は顔を向ける。目の前に迫るのは水流だ。泥を含み、褐色に濁る水は大洪水のように暴れ狂っている。その猛威に俺は「ひぃいい!!」と情けない声を上げてしまった。ハルなんか肩を竦めるだけである。くっそHS(ハイスペック)めッ(ギリィ

「精霊王よ」

 ティルカ姫は静かな声で告げる。

「力を行使せよ」

 あれ?この前より呪文短くなってね?俺は思わずティルカ姫を凝視した。ティルカ姫は涼しい顔でチラリと視線を俺に投げる。その目は言っていた。「当然の結果よ」と。磨きがかかるチートさに俺の背筋は寒くなるばかりだ。

 濁った大水流が迫る。虹色の光が辺りを覆う。そして中性的な美貌の美人さんが登場した。ちなみに俺の目に光が直撃する事はなかった。俺も小さく進歩しているのだ。

「前回はあまり力を貸してやれなかったからな。今回は惜しまずに貸してやろう」

 尊大な態度の精霊王は水流に向かって手をかざす。

「全ての事象は我等の元にある。従え、水よ」

 厳かにしかし透明感のある声で精霊王は命令した。その言葉に従うかのように水の動きがピタリと止まった。流石はありとあらゆる事象を司る精霊の王。その力は神と匹敵するかもしれない。チートまじパネェなと俺は小さく呟いた。

「我等の元へと還るといい」

 精霊王の声は穏やかだった。そして水へとかざしていた手を握りそのまま横へと払う動作をする。

 ぎゅるりと音をたてて精霊王の握った手へと水が吸い込まれていく。俺はその光景をぽかんと呆けた顔で見ていた。

「これでいいか?我が主よ」

 ティルカ姫に近寄り小首を傾げる精霊王。

「流石ね、充分よ。ありがとう。戻っていいわ」

「ああ。我等が愛し子に加護あれ」

 ティルカ姫は微笑み、精霊王は愛しそうにティルカ姫の頬へと手を伸ばし撫でた。そして祝福の言葉をティルカ姫に告げた後精霊王は空気に溶けるように消えた。くっそリア充爆発しろ。アレか世界はやはり美形に優しいのか?俺はついその場で地団駄を踏んだ。

 ゴトリ。

 ん?あれ?デジャヴ?と俺はスイッチを踏んだ感触で首を傾げる。しかしなにやら音がさっきよりも重い。

「げ」

「えっ?」

 パカリと下の地面が消えた。そう消えたのだ。俺は嫌な予感をそのままに呻き、ティルカ姫は突然の事に驚きの声を上げた。ハルはおやおやと呑気に呆れている。余裕だなチートが。

「なんですってぇええええええ」

 下に開いた黒い空間に俺達は落ちる。重力に従い落ちていく。ティルカ姫の驚愕と怒りに染まった悲鳴を俺は現実逃避しながら聞いていた。

 この世の中は全く以ってけしからんと思う。リア充爆発しろ。ついでに俺は下に着いた時のティルカ姫の制裁が怖いです。ガタブル。
















03 ( No.13 )
日時: 2015/02/11 23:17
名前: tenpon ◆fQLBB99yzY (ID: iPZjAWe2)
参照: 参照100ありがとうございます。

 絶体絶命だと思った。

 だってアレだぜ?地面が消えた先が真っ黒だったんだぜ?つまり、下への距離がかなり物だと言うことだ。

 だけどそんな事チート達には関係なかった。なんてこったい。あの悲鳴を上げていたティルカ姫の着地はそれは見事だった。着地が近くなったら魔力を下に放出してクッション代わりにしたのだ。魔力を呪文なしに実体化させ、その後風にしたのだ。どれくらい凄いのかと言うと、このお姫様は魔力を扱う達人クラスだと思わせるくらい凄い。常人だったら呪文なしの魔力放出は小石を持ち上げるくらいの威力だ。

 一方の俺はハルに軽々とお姫様抱っこされて着地した。もうやだこいつ。着地の衝撃を感じさせないなんてどこまでHS(ハイスペック)なの?イケメン過ぎて辛いわー。爆発しげふんげふん自重自重。ついでに俺、お婿さん行けるか心配になってきましたよ。

 そして俺はハルから地面に降ろさせれて、ティルカ姫に首根っこを掴まれた。

 俺は元々悪い顔色を更に青くした。だってサーと血が引く音を聞いたからな。

「貴方本当なんなの?プロなの?違うわよねぇ?そうでしょう」

 この圧倒的な威圧感を放ち仁王立ちするのはティルカ姫様だ。ちなみに苛立たしげにタン、タンとリズムを奏でるのやめてもらえないですかね?その音の発生源のヒールのあるブーツの破壊力に胃が縮こまります。きゅっと音を立てて。

 俺は無言で流れる動作でティルカ姫に土下座する。うん、今日の土下座もピタリと決まっている。

「マジすみませんでした……!悪気はなかったんです!!」

「ハン、それでプロを名乗れるの?安いものね、トレジャーハンターの名は」

 土下座し、懇願する俺に鼻で笑い一蹴するティルカ姫。この傲慢姫め……!人が下手に出てれば図に乗りおってからに……!! 内心ギリギリと歯噛みしつつ、口に出来ない俺ってヘタレ。というか18歳の男が14歳の少女に真剣に土下座するのは中々シュールな光景だと思う。

 現にチラリと見たハルは苦笑を浮かべていた。

「まあまあ、姫様。コイツへの説教はそこまでにしてくれませんか?」

 ハルは苦笑を浮かべつつ、苛立つティルカ姫を宥めかかる。

 ティルカ姫は不満そうに視線で何故かとハルに問うた。その間も俺への威圧感は減らない。さすがです。

「いやだってここのボスの前なんですよ。ほら」

 ハルはまるで道案内をするかのような気軽さで前を指さす。

 暗がりで見えなかったソコに何かがいた。ぎょろりとこちらを見つめる双眸は真紅。そしてボォとその口から吹き出る炎。僅かに照らさせるその巨体に俺は見覚えがあった。と言っても本の知識としてだが。

 黒龍。危険度ランクSS。つまり最高ランクのモンスターだ。しかも、目の前にいるのは齢千年は超えるであろう魔力の持ち主だ。化け物である。この黒龍、攻撃性と凶暴性においてはギルドの太鼓判を押されている。俺オワタ。

「これは結構骨が折れそうですねぇ。果たして一撃でいけますかね」

「無理じゃなくって?いくら『孤高の英雄』と言えどもそれは……」

 呑気に呟くハルとそれに渋るティルカ姫。だが、ハルは規格外だ。こと、攻撃に関しては。何故彼が『孤高の英雄』なんて呼ばれているか。

「ふふふ。じゃあ、僕の実力を見せておきましょうか」

 笑みを深め、黒龍に歩み寄るハル。その口調は明るい。

 対する黒龍は警戒するかのように低く呻る。グルルルと地を這うように低い声は地面を僅かに揺らす。

 ハルは指で魔法陣を空中に描く。

「此処に現れるは砲台。全てを貫け。“レーザーキャノン”」

 ハルの描いた魔法陣から透明感のある巨大な砲台が現れる。ハルの声と共に砲台に光が集まり、声の終わりと共に放たれた。

 巨大な光線は凄まじい速さで黒龍を貫く。それは喉を貫いた。

 “レーザーキャノン”。光魔法の上級魔法の中で威力が弱い魔法だ。魔法は初級・中級・上級・神級に分類される。普通であるならば、“レーザーキャノン”如きの魔法では黒龍に傷一つ付けられない。だが、ハルは規格外だ。攻撃力、魔力(魔法の威力)はカンスト済みなのである。

 ハルの本気の魔法は、上級魔法の威力が神級の威力に化けるという恐ろしい物だ。正直人外の域だと思う。

 喉を貫かれた事によりもがき苦しむ黒い巨体の前にハルは立つ。

「ガァアアアァ……」

「ああ、すみません。とどめ、刺せてないですよね。これで終わりですよ」

 ハルは微笑みを崩さず、

「“レーザーキャノン”」

 黒龍に終わりを告げた。光線は黒龍の頭を撃ちぬいた。

 ドォンと轟音と共に黒龍の巨体が倒れた。ええー呆気なさすぎる……。まぁいつもの光景ですけどね……!『孤高の英雄』の二つ名の意味の一つはこの仲間要らずの強さだ。他にも色々と意味(と言う名の皮肉)があるけどそれは後々だ。

 ティルカ姫はポカンとした顔をしていた。それはそうか。今まであまり他のチート様の実力を見た事がないのだろう。

「……と」

 ぶるぶると何やら震えるティルカ姫。そしてぼそっと呟く。あれ?何これデジャヴ?

「ちょっとー!わたくしも混ぜなさいよー!!」

 ティルカ姫は赤い瞳をキラキラと輝かせ、ハルの側に駆け寄る。え?

「はぁ……?」

 流石のハルも少し引き気味だ。曖昧に首を傾げる。ティルカ姫はお構いなしにハルの手をとる。

「貴方ってこんなに強かったのね!! 流石だわ!!」

「……え?ああ、えっと、光栄です……?」

 ティルカ姫の勢いにハルは押されている。鉄壁の微笑みも引き攣る勢いだ。凄いな。

 俺はと言うと、ティルカ姫がハルに迫る時に足を滑らせ、コントよろしくズッコケていた。なんでやねんッ!俺は魂の猛りをそのままにツッコミたかったが、残念ながら俺の口元は盛大に引きつっており断念した。

「レオ。後はお願いします」

「……ああ。はいはい。お任せくださいな」

 ハルと俺はいつものやりとりをする。“いつも”と言うのは、モンスター討伐後、戦闘後のである。俺が何故ハルと組んで仕事をしているかはちゃんとした理由があるのだ。

「あら?何をするのかしら」

「それは見てのお楽しみだぜ?お姫様」

 ティルカ姫の疑問の声を俺はおどけて答えた。そして黒龍の亡骸に向かって手を翳す。

「“解体”」
 素早く魔力を展開させ、巨大な魔法陣を築く。それは黒龍の亡骸の上を覆う。俺の魔法は少々特殊だ。「地味に使いやすく」がモットーのオリジナル魔法だ。補助魔法オンリーだが。

 展開された魔法陣はカッと白く輝く。そしてあっと言う間に黒龍の亡骸をバラバラにしたのだ。それぞれ用途別の素材となっている。流石俺。いつも通りの地味に便利な魔法だ。

 この魔法は術者の脳内のイメージ通りに分類させる魔法の派生版だ。“解体”はモンスターの亡骸にしか効果が無い。生きている時はなんの効果も得られない。

 それにしても壮観だ。巨大な黒い巨体が一気にバラけるさまは。ちなみにこの魔法はちゃんとした知識、洞察力が要求される。鑑定眼とも言うが。

「今の何かしら?」

「俺のオリジナル魔法☆」

「は?」

 俺がてへぺろととぼけて見せるとティルカ姫の絶対零度の視線が俺を貫いた。主に俺のガラスのハートを。

「グハッ。俺のガラスのハートがブロークン……」

「レオは馬鹿だよね。すみません、姫様。レオは補助魔法の才能があるのです」

 俺がダメージで地に手をついて嘆くとハルは呆れたようにため息を吐いた。そしてティルカ姫へ説明していく。

「特にレオは従来の魔法を使いやすく改良したり、地味に便利なオリジナル魔法を創るのが得意です。補助魔法だけしか使えませんが」

 確かに。俺は補助魔法しか使えないのだ。ハルの説明を俺は頷きながら聞いていた。

「地味ね……」

「ぐぬぬ……。その地味な奴に負けたのはどこのどなたでしたっけ?」

「わたくしを侮辱するとはいい度胸ね。良くってよ、今ここでわたくしの本気を見せて差し上げますわ」

 音もなく抜かれた白い刀身は俺の首元にピタリと当たる。

「まあまあ。姫様、このバカの言う事は基本スルーしましょう。時間の無駄です」

「まぁ、それもそうね」

 青くなってブルブルと震える俺を見かねてハルがティルカ姫を宥める。ティルカ姫は頷き剣を収めた。それにしてもハルさんや、親友だよね?俺ら。ナチュラルに辛辣過ぎて俺泣きそうです。

「受けてしまった依頼ですし、もう少し辺りを掃除していきましょうか」

「ええ。賛成だわ。一時間後ここに集合して帰りましょう」

 ハルとティルカ姫は勝手に話を進めていく。ちなみに“掃除”とはモンスター退治のことである。幸いこの部屋はボス部屋だからか、他のモンスターの気配はない。まぁ居たとしてもチート共の餌食になる事は必至だろう。南無。

 俺は“解体”でバラバラになった黒龍の亡骸もとい、素材を、

「“格納”」

 魔法陣を展開し異次元の空間に収納した。ちなみにコレもオリジナル魔法で他に使える奴は居ない。どうだ、俺だってハイスペックだろう。しかし、いくらドヤ顔をしようともチートコンビはモンスター殲滅へと出かけてしまっていた。残念だ(棒読み)。

04 ( No.14 )
日時: 2015/02/11 23:16
名前: tenpon ◆fQLBB99yzY (ID: iPZjAWe2)







 あれから一時間が経過した。あれからと言うのは、チート共が掃除(という名のモンスターの殲滅)に出かけてからだ。

 俺はその間、安全なボスの間(正式な名称が他にあるのだが、面倒だから“ボスの間”)でせっせと準備に勤しんでいた。

 ちなみに、その一時間の間にドォンだとか、ベキィバキィメシメシィだとかとても破壊的な擬音と共にこの洞窟が震動したのは言うまでもない。チートマジ怖い。ギャアアアアとか断末魔まで聞こえるし。

 アイツら暴れすぎだろ。絶対やり過ぎだと思うんだ。グラグラと何度も震動する洞窟内に俺も震えが止まらないよ! 生き埋めにならないか心配でな!!

 くっそ、俺のトラウマが増えるぜ……と内心嘆いているとチートコンビが帰還した。

「ただいま、レオ。あらかた掃除(……)は終わりました」

「手ごたえがまるで感じられなくて、拍子抜けよ」

「お疲れ。二人とも。つーかティルカ姫様はまだ足りないのかよ」

「だって、ほとんど一撃で終わりよ?物足りないじゃない」

 少々不満気にふてくされるティルカ姫の様子に俺の口元は盛大に引きつる。なんだと……。モンスターの防御を紙と言わんばかりに剣で素振りをするティルカ姫に俺は戦慄した。魔法じゃなくて、剣で一撃とか何それ怖すぎる。

「あははは。まあ、僕らが手こずるような敵は滅多にいないでしょうね。それこそ、あの伝説に出てくる魔王とかじゃないと」

 ハルはそう言って微笑む。一見傲慢に聞こえるセリフもハルが言うとそう聞こえないから卑怯だ。HSイケメンめ、爆発しろ。

「で、レオは何やってたんですか?」

「ん?これか?アレだよ」

「ああ、アレですか」

「“アレ”って?」

 首を傾げるティルカ姫に俺は地面に書いた魔法陣を指さす。

「これだよこれ。まぁ、アレだ。この洞窟内って予想外に広いだろ?だから一気に索敵《さくてき》しちゃおうって言う魔法の下準備だ。コレの優れ所は、なんと地下も地上もイケる事だな」

 ちなみに普通の補助魔法は水平しか無理(つまり地下とか上空とかは無理)だし、広範囲も無理。出来てもせいぜい半径1km。しかも精度にムラがあると言う少し欠陥がある魔法なのだ。それを魔法陣で補い、効果を高め、アレンジしたのが今回の魔法だ。

「へぇー。凄いわね」

「だろ?これであの黒龍みたいなボスが他にいないかも分かるし、この洞窟内にモンスターがあとどれくらい残っているかも分かるんだぜ?」

 更に言うとモンスターの種別とかも分かっちゃう優れものだ。

「意外と高性能ね。……地味だけど」

「おいこら聞こえてるぞ」

 ボソッとこぼすティルカ姫の呟きに俺は噛みつく。……おのれ人の苦労の作品になんて事を言うんだ。

「ハイハイ。そこまで。レオ、サクッと済ませちゃってくださいよ。じゃないと、この穴の中(地下)から出られないんですから」

「へいへい、わかりました。じゃあやるぞ」

 ハルが宥めるので俺は仕方なく引き下がる。そして魔法陣に魔力を込める。

「“索敵”」

 俺の声に反応して魔法陣がぶわりと展開される。空間に広がる白い光の魔法陣に更に魔力を込める。

 カッと眩く輝く魔法陣が透明になってこの洞窟内に広がっていく。俺の頭の中はこの洞窟内は勿論の事、この地下の更にその下の地中の中や、この洞窟の上に広がる蒼い空を鳥の様子まで把握していく。感覚でモンスターの居場所が分かるようになる。頭の中に洞窟内の立体的な地図が作成される。

 俺は頭の中の少しの不快感を無視した。

 それにしても、このチートコンビの力は凄いな。この地下のモンスターはあらかた掃討されていて、俺の寒気が治まりませんよ。だって、このチートコンビが倒したと思われるモンスターの亡骸が1000体を超えるんだぜ……?(戦慄)

 一時間で1000体とか鬼か、いや修羅の所業だろこれ。脳内に浮かぶ血の海とか俺のトラウマをどれだけ増やせば気が済むのこの二人!(『索敵』による把握能力のせいで)何が怖いってアレですよ、返り血が一滴たりともついてないんですよね二人とも。

 俺は新たにつくられたトラウマ(という名の心の傷)に顔を青くした。洞窟ってまじこわい。

「レオ?」

「ウッヒィ!?」

 ハルにポンと後ろから肩を叩かれ、俺は情けない奇声を上げてしまった。くっそ、笑うなチートコンビ!

 ティルカ姫は爆笑し、ハルは笑いをかみ殺している。おいハルさんや、顔面崩壊もいいところだぞいいのか。でもって姫様よ、品のない笑いだなおい!俺は内心ツッコミをした。だって俺の口、歯ぎしりで忙しかったからな。

「くっそ、後で覚えてろよ」

「はいはい。大丈夫ですよ、レオ。忘れますから。……“ウッヒィ”とか。ぶはははは!」

「そうよ。忘れるわよ、すぐに。“ウッヒィ”……ね。あはははははッ!サルみたいだわ」

「猿……!あははははは」

「……ぐぬぬ。二人ともマジで覚えてろよぉ!」

 腹を抱えて笑い転げる二人に俺は恨めし気に睨むしか出来なかった。力のない己が恨めしい……!

「はぁ……はあ。ああ、死ぬかと思いました。で、どうでした?」

 いち早く復活したハルが荒れた呼吸を整えつつ、俺に聞いてくる。ティルカ姫は未だに笑いすぎて虫の息だ。

「チッ……。しゃーねなぁ、教えてやんよ。この地下一帯はお前らが一掃してくれたおかげでモンスターは壊滅状態だな。他は、地上の一階の部分にモンスター達が一杯いるぐらいかね」

「ありがとう、レオ。で、ここって地下何mぐらいなんですか?」

「まじで感謝しろ。で、何mかだっけ?そうだなぁ……ざっと500mぐらいじゃないか?」

「結構深いですね。どうしましょうか?」

 俺が不機嫌に言っても、ハルの微笑みは崩れない。こてりと小首を傾げたハルの声は明るい。

「どうするって、魔法を使って落ちた穴まで上がればいいんじゃない?わたくし、それくらいなら出来ますのよ?」

「マジかよ。でもハルはともかく、俺は自力じゃ上がれねーよ?」

「あらそうなの?補助魔法を使って、身体強化すればよろしいんではなくって?」

「チートと一緒にすんな!俺、一般ピーポーだかんなッ!? そんな超人技出来ねーよ」

 悪気を一切含んでない純粋なティルカ姫の問いに俺の心が折れるわ。上を見上げれば、ポカリと口を開ける地上の落とし穴が見える。500mの垂直の壁を身体強化して駆け上がるとか何その荒業。この世界には重力というモノが存在しているんですよ!普通に落ちるわ。

 俺が想像で鳥肌を立ててるとハルが自分の顎に手を添え、

「じゃあ、僕がやりましょうか?」

 と俺に真摯な瞳で問いかけてきた。おい、なんで真顔なんだよ。イケメン度が上がるから本気でやめてください、ハルさん。

「ちなみにどうやって?」

 俺が戦々恐々と聞くと、

「ここに落ちてきた時と同じ要領で、ですよ」

 にっこりと実にいい笑みでハルは答えた。ちくしょー、なんで両手を広げてんだよッ!

 俺は即行で頭を振る。無理無理無理。と言う意思表示を全力でやる。

「あら?ハルさんにやって貰った方がいいわよ?だってわたくし、他人に魔法をかけた事ないんですもの。下手すると、音速を超える速さで飛ばしちゃうかも……」

「ハルさん、よろしくお願いします」

 俺は涙を飲んでハルへ頭を下げる。え?自力で上った方がいいだろうって?馬鹿野郎、ぼっちでそんな事したらモンスターに襲われて死ぬわ。おれがな!

 だってどう考えても俺には、この垂直の岩肌達を駆け上がったり出来ない。別路も、俺の脳内地図で道に迷わないもののモンスターの巣とか通らないといけない悪路だから却下だ。






 この後?もちろん無事に帰りましたよ。俺はハルにお姫様抱っこされてな。おかしいだろう、これ。お姫様抱っこって、お姫様がされるべきだと俺は思うんだ。少なくても俺のような男じゃなくって女の子がされるべきだよね?

 俺は死にたくなる羞恥心をぐだぐだと考える事で逃がす。ちなみに地上に戻ったチートコンビは涼しい顔で地上一階部分から地下一階部分の掃除とか言ってモンスターを殲滅させていましたよ。思ったよりもモンスターを葬りさる姿が修羅でした……。

 町に戻って結果報告を依頼者の娘さんにする(チートコンビが)。娘さんのぽかんとした顔が忘れられない。

 報酬として、普通の討伐依頼と同じぐらいのお金と一日の宿代無料を受けていた。結果から考えるとすっごい良心的な価格だが、依頼者の懐具合を考えての事だろう。

 洞窟にいたモンスターはほぼ壊滅状態だからしばらくは安心だろう。

 明日これからの旅に必要な物を買い込み、旅を続行させる事を決定し俺らは宿へ向かう。







 宿に着いたら俺は即行、割り当てられた部屋に行き、就寝した。もう、俺のライフはゼロよ……。主に精神面で。

 もう俺は洞窟には入らない!と固く決意し、俺は就寝した。

 最初からこれとか先が不安だと思いながら。