複雑・ファジー小説

第2話「お姫様はチート様」 ( No.6 )
日時: 2015/02/08 18:29
名前: tenpon (ID: XmoVN9aM)



 理不尽である。神様ってやつはどうしてこう理不尽という物が大好きなんだろうか。

 と言う訳でどうも。大昔に活躍した英雄王に因縁つけられたレオバルド・シュバルツェンです。つかアレってもはや呪いの域じゃね?と思っても言いませんよ。国中の皆さんから白い目で見られハブられぼっちになるのがオチだからな!

 大体俺みたいな残念な奴がハイスペックイケメンとルームシェアしている事からして理不尽極まりない。なんでかって?そりゃあ格差というかアレですよ、思い知るわけですね!スペックの違いという奴を!ちくしょー目から汗が出てくるぜ……。

「何現実逃避しているんですか?」

「うるせー。ハイスペックイケメンにはわかんねーよ」

 俺が憂い混じりのため息をついていたらハルに話しかけられた。今は荷造り中である。そう、魔王討伐の旅の為の荷造り。意識したら増々気が重くなるばかりだ。あーやだやだ。

「レオ。いつまでも駄々を捏ねないでください」

「うわーんッ。それが今から死地へと赴く親友へかける言葉か?!」

「え?親友?」

「ひどいッ」

 俺のツッコミに対する答えはあまりにも冷たかった。というか本気できょとんとするのやめようか、ハルさんや。俺のガラス製のハートがブロークンするから。大打撃。こうかはばつぐんだ。ヘタレは心が弱いものである。

「あ、そうだ。レオ、伝え忘れていたんだけど……」

「え?ハルがうっかりするなんて珍しいな。で?伝え忘れた事って?」

 珍しいこともあるもんだ。だから俺はなんの危機感も持たずにハルに聞く。

「今日王様の所に行きますよ」


「へぇ。行ってらっしゃい」

 近所にお出かけぐらいの軽さで告げるハルに俺はひらりと手を振る。俺……家からあんまり出たくないんだ。ダラダラの怠情な生活が将来の夢だからな!

「何を他人事みたいに送り出そうとしているんですか?レオも行くんですよ。というかレオがメインみたいなものですし」

「えーやだー。だって俺空気じゃん。むしろ、いなくてよくね?」

 眉をしかめるハルに俺は頭を振る。だって前回俺途中空気だったし。未だにヘタレな俺が救世主(笑)とか有り得ないと思っている。

「あはは。面白い事を言いますね。レオ。冗談はそのくらいにした方が身の為ですよ?」

「あだだだだッ!いたいいたいッめっちゃ食い込んでる食いこんでますよー!頭が頭がー!」

 にこにこと笑みを浮かべハルは俺の頭にアイアンクローを食らわせる。こいつ握力半端ない。ハルの指がギリギリと俺の頭に食い込んでいるのがよく分かる。俺は「ヒィィ!!」と情けない悲鳴と共に喚く。

 ハルの目は笑っていなかった。曰く「ぐだぐだ言ってんじゃねぇぞ、オラ。さっさと行くぞ」とその目は語っていた。ハルまじ怖い。

「レオ?」

「はいィッ!すぐに支度をして参ります!! ハル・アルゼ様ッ」

 ハルの温度の感じられない確認の声に俺は直立不動の見事な敬礼と共に支度する。いつもは十五分かかる支度も十秒で出来た。人間やれば出来るものである。

 こうしてヘタレな俺はハルに逆らえるはずもなく、王様に再び会いに行くハメになった。




 マジ理不尽。




02 ( No.7 )
日時: 2015/02/08 21:30
名前: tenpon (ID: XmoVN9aM)

 どうしてこうなった。

 今俺の目の前に美少女がいる。年の頃は十四、五だろうか。うん。そこまではいい。ゆるいウエーブのかかった金髪に宝石のような輝きの赤い瞳。そして肌荒れの一切ない白い肌は玉のように美しい。整ったその顔は十人中十人が美少女と言うくらいに綺麗だ。こんなに整った顔を見るのはハル以来かもしれない。雰囲気は高貴なオーラという物が感じられる。やっべ、今までに会った事のない人種だ。緊張を通り越して震えが来るわ。

 問題は。その美少女が仁王立ちで俺を蔑むように見下ろしているのと俺が美少女に土下座をしている事くらいだ。お陰でね、顔上げられませんよ。さっきから地面ばっかり見ています、俺。蟻の数とか数えてます。

「貴方が未来の救世主ですって?ハッ。笑わせないでよ」

 美少女が沈黙を破った。その暴言とも言える言葉と共に嘲笑を浮かべる。つか今鼻で笑ったよな?いいのか高貴な方よ。「はしたなくってよ」とかツッコんだ方がいいのだろうか。俺は少しだけ顔を上げてその光景を見た。まぁ、年下の少女にここまで言われて悔しいかと言われれば……。

「まじすいません。チート様」

 まったく悔しくない。即答に近い時間で俺は答えた。上の思考だって約一秒間でやったものだ。凄いね、俺。危機感を感じると人間やれるものである。いやだってね?目の前にいる美少女さん、チートなんですよ。魔力量だけで実力者の百倍とか化物クラスなんですよ。そんな人物に土下座を躊躇っていたらすぐにでも俺終了のお知らせがくるに違いない。オワタとかを超えるレベルである。

「……ないで」

「は?」

 なにやらプルプルと震える美少女。泣いて震えているというよりは怒りのあまり震えているようだ。だって憤怒のどす黒いオーラが俺には見えるよ。おお怖ッ。

「ふざけないでッ!! 人を馬鹿にするのもいい加減になさい!わたくしを誰だと思っているのですか!?」

「……え?誰?」

 激昂した美少女は喚くように俺に怒鳴る。俺は目の前の美少女に心当たりが無かったものだから本気で首を傾げてしまった。だって俺美少女の知り合いなんていないし。ぐすん。

「わたくしを知らないですって……?」

「え。ああ、うん」

 怒りで震える声で美少女は俺に問いかける。赤い瞳がカッと見開かれる。俺は怖さと困惑でしどろもどろな態度になってしまった。

 スラリ。

 美少女がおもむろに腰の剣を鞘から引き抜く。細身のその剣の刀身は白く、金の飾りがあるものの造りはシンプルに見える。アレか、飾りを削いで威力を重視させる的な。

 そしてその剣先をピタリと俺の首に当て美少女は重く口を開いた。

「わたくしを知らないなんて無礼も良いところだわ。一度だけ言ってあげる」

 どこまでも上から目線の言葉を吐く美少女。その強い意志を秘めた赤い瞳は冷酷な冷たさを感じる。そう、まるで人の上に立つのが当たり前のような雰囲気だ。

「わたくしの名前はティルカ・ニーシェ・アルカディア。この聖王国の第一王女にして精霊王の現契約者よ」

 その言葉に驚きでフリーズしていた俺は更に混乱した。この聖王国のお姫様は有名である。国一番の美少女としても有名なのだが、何よりもその強さで有名になっていた。剣の腕前、魔力量、どれをとっても最強。かの英雄王と契約していた精霊王と契約してからは使えない魔法はないとまでされている。お姫様は英雄王の末裔で代々王家で精霊王の契約は受け継がれている。

 まさにキングオブチート。チートの頂点のような少女なのだ、彼女は。あ、女だからクイーンオブチートか?ま。どっちでもいいか。

「未来の救世主だったらわたくしと決闘しなさい」

 剣先を俺の首に当てながらの美少女、ティルカ姫は挑発する。命令口調の中に俺を蔑む響きが含まれているからだ。が、しかしである。挑発する相手を間違えたな、姫よ。

「Why?! ナゼですかー!! 俺一般ピープルですヨー」

 俺をキングオブヘタレと知っての言葉とは思えない。だって俺恐怖のあまり言葉が誤変換起こしてるし、お陰で一部片言だから。

「だから?」

 OK。俺に死ねとおっしゃる訳ですね。だから?の一言の中に威圧感含まれすぎです。俺ガタブルしちゃう。

「貴方に拒否権はないわ。でもそうね、ここでやるにはちょっと狭いわね。ちょっと移動するわよ」

「ああ……俺の最期の時間ですね。少しでも懺悔しろと」

「貴方ってひねくれてるのね。ま、そうとって貰っても構わないわ」

 俺の嘆きの言葉を鼻で笑い、ティルカ姫は踵を返す。俺の腕を掴みながら。

 Oh……逃げられないぜ。あれ?俺どっから間違えたのかな?あれか、城でハルとはぐれたからか。それでもって迷子になった俺が城の中を冒険したからか。

「ふふふ。楽しみね」

 楽しそうに笑うティルカ姫。可愛いその笑みも俺にとっちゃ悪魔の笑みにしか見えない。

 これはもう……俺の死亡確定じゃね?










03 ( No.8 )
日時: 2015/02/08 19:59
名前: tenpon (ID: XmoVN9aM)


 さぁやって来ました。訓練場に。俺の処刑場に。

 凄いなお姫様。アンタのたった一言でこの広い場所を貸し切り状態にするなんてさ。

「さ、これで思う存分やれるわね」

「いやいや、俺ら戦う必要ないですよね?ね?冷静になりやしょうや姫様」

 再び白い剣を鞘から引き抜くティルカ姫。アレだね、気合が充分に満ち溢れていて迫力がありますね。俺はこれ以上にないくらい頭を横に振る。必死過ぎて口調が変わるくらいだ。

「男ならサクッと覚悟を決めておしまいなさい。みっともなくってよ」

「無理無理無理。アレだからサクッと覚悟を決めたら俺もサクッと殺られるからッ!!」

 ティルカ姫は面倒臭そうに剣を構えながら言い捨てる。対する俺は早口で喚きながらジリジリと後退して行く。俺、間合いに居たら殺されるわ。

「そう。じゃあ、ぐだぐだぬかす暇も与えなければいいのね?」

「へぁ?!」

 ティルカ姫は恐ろしい程のスピードで剣を俺目掛けて振り下ろす。ビュオンと風を切る音と俺が奇声を上げてしゃがんだのは同時。早いですお姫様。剣を振り上げる動作が速すぎて見えないって相当だ。その一撃で俺の結わえてある緋色の髪の一部が犠牲となった。

 はらりと散る緋色にティルカ姫は少し口の端を上げた。にこりというよりにやりと効果音が付きそうなその笑みに俺は背筋が寒くなった。ヤバイ、あれは本気だ。

「へぇ、避けられるのね。一応は。少しだけ安心したわ」

「一応は余計だ」

 心底馬鹿にしたような嘲笑に俺は反射的に反論した。

「ハッ。まだまだ余裕なわけね。流石救世主様だわ。なら手加減しなくて良いわよね?」

「え?……そこはして欲しいかなぁ」

 嘲るようなティルカ姫の言葉に俺は思わず言葉を濁す。語尾は尻すぼみに小さくなった。

「しなくて良いわよね?」

「ハイィッ」

 ティルカ姫は俺の懇願に近い呟きをまるっと無かった事にして笑顔で脅す。俺は脊髄反射のように肯定してしまった。日頃の習慣は恐ろしいものである。

「良かったわ。わたくし、手加減は苦手なのよ」

 俺の言葉を受けて満面の笑みを浮かべるティルカ姫。

「精霊王よ、契約者が告げる。契約の名の下に力を開放せよ」

「うぉ!? 眩しッ」

 剣を空に掲げ、魔法陣を展開するティルカ姫。魔法陣は眩い虹色の光を放った。そしてその光は俺の目を直撃した。思わず某大佐のように「目がぁ目がぁ!!!!」と叫びたくなった。

 光が晴れた時、そこには空に浮かび悠然と構える美人さんがいた。中性的な顔立ちと神秘的な雰囲気で性別が分からない。白銀の長い髪は何故か虹色の光を帯びていた。

「我は精霊王なり。古の契約に基づき力を行使しよう」

 威厳に満ち溢れた声で精霊王は俺にとっての絶望を告げた。

 ちょッ。ちょいとお待ちになって下さいなティルカ姫よ。アンタ単体でも俺死亡確定なのにさらに戦力を増やすとか……鬼畜か。やべぇよ、これ確実に俺終了のお知らせだわ。まだ連載始まったばっかなのに完結のお知らせだわぁ。主人公死亡で終わりとかダメだろ。

 俺は混乱する頭をフル回転させて活路を見出そうとする。もちろんその間にもティルカ姫の剣による猛攻は止まない。俺の逃げ足スキルを最大限にしてギリギリに避けられる剣撃は徐々に早く、重く、正確になって行く。現に俺の服は所々破け、血が滲んでいる。

 精霊王はその様子を目を細め傍観する。よし、そのまま傍観しててくれ。俺の生存のために。

 俺は軽く舌打ちし、腰に装備している鞄から秘密兵器を取り出し、

「さて、反撃開始しますか」

 ティルカ姫に向かって不敵な笑みを浮かべてやった。


 チートだからなんだ。ヘタレだって追い詰められればやるんだぞ。それを証明してやる。俺はちょっとだけ覚悟を決めた。

 人間、吹っ切れるものである。どっちに転んでも死亡確定なら無様にでも足掻いてやろうじゃないか。















 ハルが国王と話していると慌ただしく城の兵士が謁見の間の扉を開けた。

「陛下!大変ですッ!!」

「なんだ。騒々しい」

 相当慌てた様子の兵士に国王は冷静に返す。

「いえ、それが……ティルカ姫様が」

「ティカがどうかしたのかの」

 兵士の口から愛娘の名が出ると国王は一転して顔色を青くした。“ティカ”とはどうやらお姫様の愛称のようだ。そんなに変わらないな、とハルは内心思いながらも黙って見守る事にした。

「ティルカ姫様が救世主様と決闘をなさっているそうです」

「なぬッ!?」

「それも訓練場を貸し切り、中に人を入れないようにして。だそうです」

 兵士の言葉を受け国王は愕然とした。青くしていた顔を更に青白くさせ、玉座から立ち上がる。威厳崩壊もいい所だろう。

「それはイカン。行くぞ、ハル殿」

「え?ああ、はい」

 慌てて先を行く王にハルは唖然としながらもついて行く。

 王が慌てた理由についてハルは首を傾げるしかなかった。

 ついでにはぐれたレオは大丈夫かなぁと呑気に思いながら。


Re: 救世主さまはヘタレ ( No.9 )
日時: 2015/02/08 20:18
名前: tenpon (ID: XmoVN9aM)


 王とハルが訓練場に向かっていたその頃。

 レオはティルカ姫に不敵な笑みを浮かべた後、心の中で絶叫していた。要約すると、「ヤベェエエエエ!! マジドウシヨウ!!」だが。

 腰にある鞄から取り出した秘密兵器をレオはティルカ姫の目の前に突き出した。

「ハッ。馬鹿にしているの?」

 ティルカ姫の反応は非常に冷やかなものだった。レオを見る目は下にいる人間に向けるものではなく、ゴミを見るような目に変化していた。

 最大限の蔑みの視線にレオは涙目になるものの、

「くっそ、馬鹿に出来るのも今の内だぞ」

 小悪党によく見られるフラグじみたセリフを吐いた。そして秘密兵器、クラッカーの紐の部分をグッと引っ張った。

 お誕生日会お馴染みの小道具、クラッカーはパンッと小気味良い音を立て小さく破裂した。ティルカ姫の目の前で、だ。

 このクラッカーの中身はカラフルな紙切れ、火薬、レオ特製痺れ薬・目潰し薬だ。この特製薬、毒キノコやモンスターから採れた素材等を調合して出来た粉末だ。ちなみにこれは対人間用だ。致死量までは入っていないが、これを少しでも吸うと目眩、吐き気、手足の痺れ、一定時間の失明等の症状が襲ってくる。即効性の薬効だ。卑怯とか言わないで欲しい。これでも死なないように必死なのだ。だって俺強くないし。

「なんですって!?」

 突然視界を奪われ、様々な症状に襲われたティルカ姫は動揺した。そしてその不快さを無くすべく、状態異常回復の魔法陣を素早く展開する。

「“キュア”」

「“魔力介入”」

 状態異常回復の呪文と同時に俺は右手に創った魔法陣をティルカ姫の魔法陣に叩きこむ。これはレオのオリジナル魔法だ。ただ単に自分の魔力を相手の魔法陣に叩きこむ技術もへったくれもない魔法だ。

 魔法発動中に他人の魔力を介入されるとどうなるか。それは簡単、暴発する。しかも回復魔法の暴発は禁忌に近い。何故なら、暴発した魔法は術者に牙を剥くからだ。

 ティルカ姫の魔力は揺らぐ。しかし暴発までは至らない。流石チート様、と俺は呟く。

「これにてお終いってな」

「きゃあ!?」

 さらに追い打ちをかけるように介入させていた魔力を操る。揺らぎを大きく、暴れるように。制御で手一杯のティルカ姫は短く悲鳴を上げる。

 一度揺らいだ魔力を制御するのは難しい。例えはアレだ、全力で投げたボールの軌道をどうにか逸らすくらいに難しい。普通なら無理だ。

 ティルカ姫の魔力が暴走した。

 ブワッと膨れ上がる純度の高い魔力。これが暴発した時の破壊力を考えただけで寒気がした。これ王都無くなるんじゃね?

 俺が内心焦りまくっていると傍観を決め込んでいた精霊王がため息を一つ吐き、フワリとティルカ姫の側に降りた。

 流石精霊の王。少し集中するように目を瞑り、右手を前に上げた。ただそれだけでみるみる魔力の暴走が収まっていく。

 ティルカ姫がホッと息を吐いた。俺はその隙を突いて、隠し持っていた短剣を抜き取り、ティルカ姫に突きつけた。

「なッ!?」

「残念。ここまでだね、お姫様?」

 首元で鈍く光る刃の存在に目を見開くティルカ姫に俺はニヤリと笑った。ええもちろん、内心では冷や汗ダラダラですよ?俺だってヘタレと自覚している。

 俺何気に凄いと思う。だって精霊王の横をすり抜け、チートオブチートのお姫様の隙をつけたんだもん。何気にスペックが高いのが俺だ。いや嘘ですまぐれです。

「くッ」

 悔しげに唇を噛み締めるティルカ姫。

「?」

 俺が首を傾げるとその綺麗な赤い瞳からボロリと涙が零れ落ちた。

「えッ!?」

「……けた」

「わんもあぷりーず?」

 ボソリと呟くティルカ姫の声が聞こえ辛かったから俺は聞き直してしまった。

「だから!」

 カッと見開く赤い瞳。ボロボロと止まない涙。かつてないタブルコンボで俺はオロオロするしかない。つか精霊王傍観すんなこのお姫様を止めろ。

「初めて負けたって言ってんのよッ!! この馬鹿ッ!最低!とさか野郎死ね!!」

 ええええええ。何この理不尽。後半関係なくね?

「男なら責任取りなさいよぉ!!」

 うわぁああんと号泣するティルカ姫。おま誤解されるセリフでソレって。



「何事かね?」


 かつて聞いたことのない低音が重く響く。ティルカ父もとい、王様だ。ほらー!お姫様がフラグを立てるから!!

「マジさーせんした—!!」

 俺は半ば涙目になりつつ華麗にスライディング土下座を決めた。これのポイントは対象(今回は王様)の目の前で綺麗な正座でピタリと止まることである。今回は完璧に決まった。変な達成感で一杯だ。

「ほう。謝るような事をしたのかね?」

 まじ威圧感半端ないっす王様。

「まぁまぁ、陛下。少し落ち着いて下さい。それにコイツはそんな大それた事を出来るような奴じゃないですよ」

 王様を宥めるかのような穏やかな声はハルだ。ところで最後俺貶されていると思うんだけど。

「うむ、それもそうか」

 ハルの言葉に頷く王様。俺のヘタレっぷりをご存知だからの言葉ですね俺泣きそう。

「お父様!! わたくし、決めましたわッ!この魔王討伐旅に同行致します」

 突然ティルカ姫が王様に向かって高らかに宣言する。

 涙を散らしながらのその言葉に、

「成長したな、我が娘よ。うむ、いいだろう。行ってきなさい」

 あっさりと王様が頷いた。心なしか目が潤んで見える。親馬鹿だ。

「お父様……!」

「え?いやいやおかしくね?なんで仲間フラグ立ってんの?? WHY!?」

 感動するティルカ姫に俺はすかさずツッコむ。そんなフラグはバッキバキに折ってやんよ。

 ティルカ姫は思いっきり馬鹿にしたような蔑みの視線で俺を見る。盛大な溜息の後、

「そんなの決まっているじゃない。わたくしを負かしたからよ。それとも何?女の子を泣かせておいて責任も取らないつもり?」

「わぉ。超理不尽」

 ティルカ姫の傲慢ともとれる言葉に俺は棒読みでしか返せなかった。

「それに貴方に拒否権は存在しないの。わかるわね?」

「……ハイ」

 ちくしょー平民なのが辛いぜ!お姫様から放たれる威圧感と有無を言わせない雰囲気に呑まれ俺は頷いてしまった。

 項垂れる俺の肩をハルがポンと叩いた。

「……諦めましょう。まぁドンマイです」

 ハルは哀れみの視線を俺に向けた。くっそ、そもそもお前が俺を城で置き去りにしたのが悪いんじゃねーか。もちろんそれは心の中でしか叫ばない。俺ヘタレだからね。





 こうして旅の仲間が増えました。全然めでたくないけど!

 美少女でもチートだ。つまり強い。あれ?俺増々必要なくね?あれ?


 どうしてこうなった……!