複雑・ファジー小説
- Re: 朝陽1話 ( No.1 )
- 日時: 2015/02/11 00:54
- 名前: いずいず ◆91vP.mNE7s (ID: 95QHzsmg)
朝陽の差し込む階段の踊り場、そこが彼女のステージだった。
*
ぼくの通う高校は、県下で五番目とあまり成績のよくない公立進学校ではあったけれど、邪魔なくらい熱血野郎な教員の溜まり場でもあった。
県下で五番目というのは、言い換えれば『ばかが行く高校』と言われる私立校のより、ほんのちょっと出来がいいだけの生徒が引っかかっている程度ってこと。頭の出来もさることながら、いいかげんな態度も私立校寄りな生徒たちにとって、彼らの熱血ぶりは旧世紀の遺物のようなものだ。
だからと言って、県に金を出させて勉強しているぼくらには、出資者の用意する教員や、教員の用意する授業等は、どんなに内容がまずくても受け取り拒否が出来るわけではない。
なのでぼくは、高校に入学して二ヵ月もたっていないというのに、早朝テストの再テストなるものに、朝の七時から駆りだされていた。
早朝テストというのは、月・水・金の八時半からホームルーム中に行われるミニテストのことで、月曜には英語の基本構文、水曜には数学十問ドリル、金曜には国語の漢字書き取りが行われる。そして、そのテストに合格しないと、翌日のやはり早朝、再テストを受けなければならないのだ(国語のミニテストのみその日の放課後に行われるが)。日々の反復こそが力になると信じているうちの高校が、創立以来続けている悪習だった。
しかし、それで結果が出ていれば、ぼくだっておとなしく従うだろう。けれど、それを何十年と続けていても、進学率はあいかわらず県下で5位だし、県唯一の国立大学合格率なんて、最近じゃ私立校に負けている。
家が近いから、徒歩で通っていた中学時代より朝寝坊が出来ると選んだ高校だったのに、毎朝八時になる前に登校させられ、挙句の果てにこれだけやっても国立大合格率もパーセンテージが低いんじゃあ、割に合わない。
まあ、こと早朝テストにおいては、一発合格すれば再テストを受ける必要もないわけで、本気で早起きがいやならきちんと勉強すればいいだけの話だが。
が。
ぼくはどうしてか、極端にこのミニテストに弱い。おかげで、ほぼ毎日のように再テストを受けさせられている。
第一教棟の四階にあるだだっ広い視聴覚室に、一年全十一クラスから再テストに引っかかったおちこぼれがぎゅう詰めにされ、がりがりと一心不乱にテストを解いていく。ありがたいのは、ひとと相談をしてはいけないが、辞書や教科書の持ち込みは可であること。
ぼくはなんとか隅っこのほうに席を見つけ座り、前もって配られていたテストを見ながら英語構文の問題集を鞄から取り出した——取り出そうとした。
「……」
やばい。昨日、教室に置いて帰ったんだった。
家で勉強する気がはなからない証拠だ。
幸いにして終了時刻こそ同時だが、テスト開始時間はまちまちだ。ぼくは『この席取ってますよ』と、鞄を椅子に置いておいて、第四教棟の三階にある自教室に問題集を取りにいくことにした。