複雑・ファジー小説

Re: 朝陽3話 ( No.3 )
日時: 2015/02/11 01:03
名前: いずいず ◆91vP.mNE7s (ID: 95QHzsmg)

 年を重ねるに連れて一年は短くなっていくと言うけれど、高校という新しい世界での一年も、目を回しているうちに終わりに近づいた感じがする。

 彼女の朝陽の中のバレエは、定期的にとはいえなかったが、あの日以降も何度か見ることはあった。最初はぶっ飛んだことを言ってぼくを牽制した彼女だが、季節が夏になり、秋になり、と移り行くうちに、軽く会話ができるほどには仲良くなれた。ただし、

「また再テストかよ」
「脳細胞が死滅してんだろ、苦労するよな」
「ばかはどうあがいてもばかなんだから、勉強するだけむだだって」
 これを会話と呼べるなら、だが。

「ねえ、先輩」
 休むことなく手足を優雅に運び続ける彼女に、ぼくはこの一年、何度となく問いかけた。
「名前、いいかげん教えてくださいよ」

 しかし、ほかのどんなことでも答えてくれる彼女だったが、名前と学年だけはどうあっても教えてくれなかった(ぼくが彼女を『先輩』と呼ぶのは、彼女が三年生のクラスがぎっしりつまった第三教棟にいたからにすぎない)。

 なので、こちらも体育祭や文化祭等、全学年がいっせいに集まるときに目を凝らして、なんとか彼女らしい人物を探そうとするのだが、一学年五百人ものマンモス校だ。ほとんど無理だ。友人や部活の先輩を通じてなんとかしようと思ったけれど、それにはこの朝のひとときのみのステージを公開しなければならなくなる。

 それだけは絶対にいやで、ぼくは結局彼女の名前すら知らないまま、その踊りに見とれていたのだった。

 至福の時間だった。ぼくはキリスト教徒じゃないからわからないけれど、たぶん、ミサとかで神様に祈るとき、こんな気持ちになるんじゃないかと思うくらい、厳かで神聖な気持ちで……、


 ——恋を、していた。