複雑・ファジー小説

Re: 【風の吹く街:更新】カタテマ【短編集】 ( No.32 )
日時: 2016/01/01 00:37
名前: R (ID: WqZH6bso)

【手と手とて】

今年の冬は例年を遥かに上回る豪雪を記録したとのニュースを耳にした。
しかしながら僕にとって異常気象なんてものは武士にとってのクリスマスの様なもので、つまりは何の関係も無いものである。
何故かと問われれば、あまり言いたくはないがこう答えるだろう。

「引きこもりだから」

僕自身はこうなった事を認めたくはないし、誰かにそう思われたくはないのだが、世間一般ではそう呼ばれているんだから、僕が引きこもりに値することは紛うことなき事実だ。

なんにせよ家から出ないのなら外の天気がどうだろうと大抵の事象は僕には関係の無いことだ。
流石に地震や火事だとかは影響はあるが僕は生きる事に対して積極的な人間でもない。
命の危険に晒されることがあったら、あわよくば死ねるんじゃないかと思うまでもある。
あえて、あわよくばと付けたのは僕は、死ぬことに対しても積極的ではないからだ。
どこまでいっても中途半端で気力の無いのが僕という存在である。

少なくとも今の僕は。

僕にだって気力に満ち溢れ将来に希望の目を輝かせていた時期もあった。
毎日のように学校でイタズラをしては友達と叱られ、放課後には皆で集まってサッカーや野球をしていた。
しかし、今ではその記憶も自分が作り上げた幻想ではないかと思うほど輪郭がぼやけてしまった。

思い返すほどに心が抉られるような心地がするので、思考を一旦停止し時計の針へと目を向けた。
時刻は深夜零時を回った頃を指しており日付は一月一日、つまりは年明けを表していた。

お正月。僕にとっての年初めにして最大の難関である。
世間の人間はやれお年玉だ、やれ宴会だと騒いでいるがとんでもない。
僕の親族は正月には必ず本家の元へと顔を出すしきたりになっている。
例え熱があろうと医者に絶対安静と言われていようと連れていかれるのだから、ただの引きこもりが欠席しようなんて天地がひっくり返っても無理な話である。

とにもかくにも、この正月が僕にとって人生の転機であるのは間違いの無いことだ。