複雑・ファジー小説
- Re: RAVIStar-Midnight Invitation- ( No.1 )
- 日時: 2015/02/14 14:04
- 名前: 深海 (ID: nWEjYf1F)
「ふぅ」
7月10日23時のこと。僕は突然送られてきた招待状を読んで、ひとつ溜息をついた。
送り主は僕の叔父さんに当たる人で、ホープカンパニーという製菓会社の社長を担っている"菅英輔"さんだ。
その人は社長を担っているだけあって、かなりのお金持ちである。
競馬で大当たりしてからは更にお金が増えたみたいで、今や家は豪邸だし、別荘や高級車を幾つも所持しているのだとか。
見た目はどこかの執事みたいな感じの人で、服装は常にスーツ姿、髪も七三に分けていて、立派な髭を生やしている。
一言で言ってしまえば、富豪の上を行く大富豪ってところだ。それは同時に第一印象であって、一番古い記憶で英輔さんを見たときが今から2年前——つまり僕が15歳だった頃だけど、もうその時から彼はそんな見た目をしていたっけか。
「——」
そんな英輔さんから送られてきた招待状などさして気にせず、何となくベッド際の窓から外に目をやってみる。
夜空一杯に広がる満天の星空は、この地域の空気が清浄であること、同時に田舎であることの証だ。
青白い満月が、僕の身体を優しい光で照らし出す。もうそろそろ、天辺まで登るころかな。
——ふと、勉強机の上に置いたスマホが、柔らかなメロディーと共に何かの通知を知らせた。
「うんしょ」
ベッドを降りて、机へと向かう。
ゲームのプッシュ通知は全て拒否してあるから、こういうときの通知は全てメールか電話の二択となる。
今回は——後者だった。
「もしもし?」
この夜中にかけてくる人と言えば——誰だ。
スマホの画面に映し出された、一番よく見慣れた携帯電話番号を見てその問題を解いてみる。
「あ、歩夢?」
そして声を聞いて答え合わせ。結果、正解。
「なんだ、天音か」
電話をかけてきたのは、僕の昔馴染みこと"蒼井天音"だった。
「ちょっとー、なんだって何さ! 折角電話したのに」
「ごめんごめん。で、何? こんな夜中にかけてきたんだから、まさか何となくなんて理由じゃないよね?」
「当たり前だよ」
何だ、一応用事はあるのか。
面白くないな、これではからかい甲斐がなくなるじゃないか。
でもまたそんなことを言ったら怒られそうだったので、ここは口をミッフィーにしておいた。
「その、昼くらいに菅さんからパーティーの招待状が届いたんだけどさ」
「あー」
菅さんからパーティーの招待状——ということは、僕の元にも届いたやつか。
「それ、僕にも届いたよ」
「え、ほんと?」
「うん。7月25日の18時から菅さんの家でダンスパーティーってやつでしょ? 届いたよ」
「えー、じゃあ……歩夢どうするの? 参加する?」
「んー……」
正直言って、決めあぐねていた。
これでもかと金を持った稀代の大富豪から——もとい菅さんからダンスパーティーの招待状が届いたとなれば、普通の人なら予定が開いている限り参加するに違いない。
ただ、僕はそもそもダンス自体踊ったことないし、きっと参加者である周りの人はみんな、貴婦人だとか何とかかんとか、高貴な身分を持つような方々が名を連ねるのだろう。
そんな場所に僕がいては、ただ単なる場違いにはならないだろうか。多少知り合いが混じっているといえども。
どうしてもそう思ってしまうのだ。
——ここは天音の意見を聞いてみよう。
「天音はどうするつもり? 一応手紙では、小波渡先輩に柚子も参加するみたいだけど」
小波渡さんというのは、2ヶ月前に天音を介して知り合った先輩だ。
僕や天音と通っている高校は一緒で、僕らは高校2年生で彼女は3年生。
任期は切れたが、かつては生徒会長を務めていた実績を持つ。
そして柚子というのは、僕の従妹。
これまた僕らと通っている高校は一緒で、彼女は未だ初々しい1年生である。
嫌らしいくらいに頭が良いので、色々なことを遠まわしに言ってくる様が少し大人びて見えるマセガキなのだ。
余談だが、もう1人手紙に名を載せていた西園寺玲は、実は僕とあまり面識がない。
天音とは大の仲良しらしく、彼女からは品行方正で慎ましやかな性格だと聞いている。
以前に——と言ってもいつだったかは忘れたけど、すれ違い様に一度合ったきりだ。
「あたしは参加するつもりだよ。柚子ちゃんが悪い男に目を付けられないようにねっ」
「そういう理由?」
聞いて、僕は思わず笑う。
僕は天音とは昔馴染みで、柚子とは従兄妹の関係にある。
そんな関係の所為か、天音も柚子とかなり仲が良く、最近はよく一緒に遊んだり出かけたりしているらしい。
ただ、普段の柚子はズケズケとものを言ってくる性格なので、度々衝突することも少なくない。
喧嘩するほど仲が良い、とはよく言ったものだ。
ともあれ、天音が参加するなら僕も参加しようかと思った。
男友達と泊り込みで騒ぐのもいいけど、どうせならこういう社交の場というものを経験しておきたいからだ。
生憎、知り合いは女ばかりになりそうだが。
「まー、それなら僕も行くかな」
「そうこなくっちゃ! んじゃ、おやすみー!」
すると満足したのか、天音は唐突に、且つ一方的に電話を切った。
「ふぅ、まったく……」
プーッ、プーッ、という通話終了の音が3回ほど耳に入ってきてから、僕はまた溜息をついた。
何か流れで参加が決定したけど、今日のところはとりあえず寝ることにした。
時刻は既に午前の0時。学校は休みじゃないんだから、早く寝ないと明日に響くだろう。
スマホの通知設定をオフにして机の上に置き、ベッドの上に寝転がる。
月光を遮るためにカーテンを閉めてからは、僕はものの数分で夢の世界へと旅立った。