複雑・ファジー小説

Re: RAVIStar-Midnight Invitation- ( No.2 )
日時: 2015/02/14 23:33
名前: 深海 (ID: nWEjYf1F)

 翌日の授業後のこと。
 帰路につくべく校門を出たとき、後ろから僕の名前を叫ぶ誰かに呼び止められた。

「おーいっ!」
「?」

 誰だと思い振り返ってみると、遠くから手を振りつつ、猛スピードでこちらへ走ってくる男子生徒が見えた。
 そのシルエットには、見覚えがある。
 バブルマッシュの茶髪。緑色の瞳。赤いスポーツウェア。某サッカーチームのエンブレムがプリントされた首タオル。
 こんな特徴的なヤツ、もうあいつしかいない。

「よう、歩夢」
「潤か」

 やってきたのは予想通り、僕の親友こと"園田潤"
 僕が通っている神谷高等学校の陸上部に所属するエースランカーで、運動において彼の右に出るものは誰一人居ないという。
 特に長距離走では全国大会でも優秀な記録を修めており、今までに大会で勝ち取った賞の数は数え切れたものではない。
 そんな脳筋ヤローだけど、とても優しくて更にイケメンなので、女子の間で絶大なる人気を誇っている。
 全く、羨ましい限りだ。

「相変わらず頑張ってるねー。僕には真似できないや」
「そうか? まーお前は運動向きじゃないとは思うけどよー……一緒に走ろうぜ?」
「いやいいよ……」

 この真夏日によく元気でいられるなぁ。ある意味感心する。
 実は先ほど、僕は誰かが熱中症で倒れたという噂を小耳に挟んでいた。
 誰かが倒れてしまうほどに、外の気候はかなりヤバイのである。だというのにこの男は——

「……おーい? どうした歩夢?」

 ついさっきまでスポーツドリンク片手に汗を滲ませ、全力で学校の敷地内を走り回っていたのだ。
 もうグラウンドだけでは足りなくなったのだろうか。こうして外にいるだけでも僕は死にそうだというのに、それに対して潤は、ゆっくり歩く僕の横で"超"素早くその場で足踏みをしている。

「何、まだ体力余ってるの?」
「当たり前だ!」
「元気なのはいいけど、無理はしないでね……」

 そう。倒れてからでは遅いのだ。

「あと、あんまりコンクリートの上で走ってると足に悪いよ」
「おっと、俺の脚力を舐めてもらっちゃ困るな、歩夢。俺がフルマラソン出たの知ってるんだろ?」
「ま、まあ、そりゃそうだけどさ……」

 潤は一度、フルマラソンの大会に出ている。
 公式のものではなく練習みたいな感じのそれではあったが、潤は同じ陸上部のキチガイ——もとい彼と同じくらいの体力を持つ人達と共に、そのフルマラソンに出て、あろうことか42.195キロを完走してしまったのである。

「とりあえず、俺はもう一っ走り行ってくるわ。じゃあな!」
「うん。バイバイ」

 バイバイといい終わる頃には、既に彼の後姿は豆粒並に小さくなっていた。
 これから学校の敷地の外周を走るのだろう。
 この学校の外周は、一周すると丁度1000メートル、つまり1キロ分の距離がある。
 なので、外周一周のタイムを計ることで、女子の持久走1000メートルのタイムを計ることができるのである。

 ——この灼熱の炎天下は、もうじっとしているだけで倒れそうになる。
 さっさと帰ろう。そう思って校門を出ようとしたら、また誰かに呼び止められた。

『はいはい、お次は誰ですか?』

 声は女の子で、距離は恐らくすぐそこだ。
 振り返ってみると、直ぐ後ろに意外な人物が立っていた。

「あれ? 西園寺さん?」
「ふふっ、覚えててくれたのですね。嬉しいです」

 くすっと微笑む彼女の名は、天音と仲が良いらしい張本人"西園寺玲"さん。
 実は彼女は年上なので、天音はいつもタメ口を聞いてるけど、僕は普通に敬語で話すことにしている。

「もしよろしければ、一緒に帰りませんか?」
「ええ、喜んで」

 何という巡り合わせだ。これを機に、色々話を聞いてみようか。