複雑・ファジー小説

Re: 古の秘宝-LIFE≠00-【キャラ募集開始】 ( No.16 )
日時: 2015/03/13 19:32
名前: キコリ ◆yy6Pd8RHXs (ID: nWEjYf1F)

「あーもー、だから注意したのに……いけずやわぁ」

 20時。ようやく町行く人の数が減りだした中、慌しく都会の道を疾走する者がいた。
 名を"東雲和泉"といい、生まれである大阪の独特なイントネーションで喋る、ある意味特徴的な少女である。

 自転車とほぼ同じ速さで走る彼女の足は、とある市民病院へと向いている。
 走る勢いは衰えることを知らず、寧ろ速度は上昇傾向にあり、体力の低下も全く見られない。
 しかし、若干——否よほど慌てているのか、形の良い眉はかなり歪に歪んでいる。
 説明するならば、高速疾走する変顔少女という言葉で足りた。
 ただ、走り走り慌て慌て、それでもブツブツ独り言を呟くところを見ると、彼女には相当な体力があるのだろう。
 そんな彼女の形相を見るや否や、道行く人々は一歩退きながら、どこか驚いた様子で彼女の背中を見送っている。

 その甲斐あってか、やがて東雲は迷うことなく、あっという間に市民病院へと到着した。

「あの、お客様!」
「今あんたらに構ってる暇ないねん!」

 そして、受付人が掛ける声を半分無視して院内へ侵入し。

「ちょっと君……」
「ええい、邪魔や!」

 暴走する彼女を止めようとする警備員を押し退け、あっという間に階段を登りきり。

「見つけたで……」

 息が上がってきた頃に、ボソリと怨嗟の声を呟きながら。

「どぉおりゃああああぁぁぁッ!!」
「ぐほぉあ!?」

 十分すぎる助走の勢いを借り、必殺の飛び蹴りをかましたのは。

「痛つつ……何じゃ和泉。良いところをぶち壊しおってからに……」
「そんなことよりアンタ、こんなところで何してるん?」

 少年の首元に刃物を構え、姫野と香織の二人と相対している男——久島正徳の横っ腹であった。

 ——緊迫とした空気は、一気に破壊された。

 飛び蹴りの衝撃で少年とナイフを手放してしまった久島は、痛い痛いと横っ腹をさすりながら仮面の位置を整え、突然の訪問者——ではなく襲撃者である東雲を躊躇い無く思い切り睨んだ。
 対する東雲も負けておらず、乱れた髪とブレザーを整えながら金の瞳に威光を宿し、久島がつけている仮面の向こう——恐らくは黒い瞳があるであろう場所を睨み返している。
 一方で姫野は突然やってきた東雲に驚き硬直し、香織は泣きっ面で胸に飛び込んできた少年を宥めている。
 幸いにも周囲に人はいなかった。病室もなく、あるのは物置部屋へと繋がる扉だけである。

「その子捕まえて、何するつもりやった?」

 東雲はその子と言いながら、香織が宥めている少年を顎で指す。
 腰に両手をあてがう彼女は、最早見るだけで気の強そうな少女だと認識できるくらいのオーラを放っている。
 まるで相対している久島が。年齢60を優に越える人生の大先輩が、少し小さく見える姫野であった。

「勇樹、大丈夫?」
「う、うん」

 香織に勇樹と呼ばれた少年は、声を掛けられて直ぐさま香織より離れた。
 同時に、ズボンの右ポケットに、確かに看護婦から預かった鍵があることを再三確認する。
 そうしている間にも、事は徐々に進んでいた。香織と勇樹が、そんなやりとりをしている傍らで。

「そこにいる二人から、アーティファクトに関する情報を聞き出そうとした」
「じゃあその少年は何や。人質とか、とる必要もなかったやろ」

 "そこにいる二人"に該当する姫野と香織は、顔を見合って首を傾げた。
 アーティファクトという単語について、無言の会話を交わしていただけだが。

「ええか? ウチらは日本のために動いてるんや。それをちゃんと頭に叩き込んどき」
「痛!」

 久島の頭に拳骨をかます東雲。
 華奢なその右手には、全く想像できない破壊力が秘められていたらしい。
 拳骨を落とされた久島は、思わずしゃがみ込んで頭を抱えた。
 それを見下ろし、溜息をつく東雲。事の成り行きを見ていた姫野たちに気付いたらしく、彼女は三人のほうへと向き直る。

「堪忍してなぁ……このアホが迷惑かけて」