複雑・ファジー小説

Re: 古の秘宝-LIFE≠00-【キャラ募集開始】 ( No.18 )
日時: 2015/03/14 16:42
名前: キコリ ◆yy6Pd8RHXs (ID: nWEjYf1F)

 時は遡り、午後の3時。人通り無き裏通りに、ひっそりと聳え立つ児童養護施設の客室にて。
 そこで暮らしている"橘翼"は、唐突にやってきた客人——もとい知り合いを出迎えていた。

「……何、これ」

 橘の知り合いこと"南友香"
 椅子に座るなり、彼女が持ってきた緑色の球体を目の前に差し出され、橘は当惑の色を隠せずにいた。
 一方でその球体を持ってきた南といえば、橘にとっては毒以外の何者でもないそれをむしゃむしゃと食べている。

「これ? これはね、ドライ納豆に抹茶チョコをコーティングしたお菓子だよ」
「……」

 聞いて、一先ず毒という概念は消え去った。
 見れば確かに、その球体は納豆よりも一回り分大きい。
 ただ、抹茶と納豆が一緒になっているのかと思うと、今ひとつ食が進まない。
 彼女はやがて、その豆が7つ乗った皿を南の前に差し出した。

「これ、いらない」
「えー何で? 美味しいのに」
「抹茶は好きだけど、納豆はあんまり好きじゃないの」
「そっか。じゃあ私が貰っちゃうよ」

 南は遠慮もなしに皿を受け取ると、乗っている豆を自分の皿へと移し変えた。
 皿は両者とも御飯茶碗1つ分の大きさであり、ぎりぎり溢れない程度に豆が盛られているため、たったの7粒ばかり追加しても量は然程変わったように見えない。
 つくづく人の好みは理解できない——橘はまた当惑の色を隠せなかったので、真っ直ぐ本題に入ることにした。

「……で、今日は何の用事?」

 橘が本題を切り出したのは、淹れてきた緑茶を啜り、一息ついてからのこと。
 モグモグと豆を頬張る南が応えるまでは、租借して飲み込むための数秒の時を要した。

「そろそろ事態が動き出すからね。翼ちゃんにも協力してもらおうと思って」

 事態という単語を聞くなり、僅かに眉根を顰めたのは橘。
 南は茶を啜ると、少しの間を置いてから話し始めた。
 湯飲みに淹れた緑茶を飲むたび、深い溜息が出るのはこの二人だけなのかもしれない。

「アーティファクトを狙う奴らが、次々と動き出したみたいでさ。さっき望華ちゃんから聞いたんだけど」
「のぞ、か……?」
「あぁ、私の知り合いね。結城望華——なんか報道活動してるみたいでさ、私にとっては良い情報屋なんだよね」

 南の口から零れた望華という名前の持ち主は、現在カメラを片手に都会を疾走している。
 ただ、最近では能力者であるという噂も立っていて、彼女に関わる人々は皆警戒の眼差しで見る傾向にある。
 一方で当の本人は否定も肯定もせず、ただカメラとメモ帳を手に報道活動を繰り返しているのだという。

 南からその話を聞いて、橘は思うところがあった。

「——じゃあ、みんなは……その、のぞかっていう人を、疑ってるの? 能力を武器に悪さをするんじゃないか、とか」
「そりゃ、人間全部が能力者ってわけじゃじゃないからね。望華ちゃんも可哀想だよ」

 淡々と話す南の表情は、どこか憂いを帯びていた。結城と彼女の仲はそれなりに良いほうなので、他者を思いやる南にとって、友人が疑いにかけられていることが許せないのだろう。

「話が逸れちゃったね」

 気を取り直した南は、また豆を口へと放り込んだ。
 話していて息が納豆臭くないことを考えると、あまり納豆らしいクセは無いのかもしれない。
 そう考えてもやはり、橘はどうしてもその豆を食べる気になれなかった。

「まー、とりあえず。今日の夜の8時までに病院に来てくれるかな?」
「分かった……でも、何をすれば?」
「出来る事を片っ端から、だね。とにかくあいつらの妨害になることをしてほしいな」
「ん」

 橘が頷いたころには、皿の上にあった大量の豆は消えていた。
 彼女の知らぬ間に、全て南が食べつくしたのだ。
 半分呆れ顔で皿を重ねる橘を尻目に、南は席から立ち上がり、うんと上へと伸びをした。
 裾の短いインナーから、僅かに白い肌が覗く。

「あ、そうそう。これも望華ちゃんから聞いたんだけどね」
「?」

 橘が南に声を掛けられたのは、湯飲みに残った緑茶を飲み干すのとほぼ同時刻。

「今日、泡沫家の令嬢が病院に来てるらしいよ」
「え……何で?」
「さあ……? 詳しくは分からなかったみたいだけど」

 泡沫家と聞いて、驚きを露にする橘。当然である。
 南の言う泡沫家といえば、今や家電製品の大企業と化したレスファロード社の社長の家柄なのだから。

「何にせよ、その人を訪ねてみるのもいいよ。あの人も鎮静派みたいだから、一緒に行動してれば悪いことはないはず」
「分かったわ」

 とはいえ、相手は大企業の令嬢。
 アニメや漫画によくあるが、お嬢様という立場の人間は大抵2つに分かれる。
 大人しいか、我侭か。ただそれだけ。
 だが、それだけとは言えるものの、もし尋ねる予定である件の令嬢が我侭だったら、それはそれで色々と面倒である。
 出来る事なら単独行動をしたいところだ。

「じゃあ私は行くよ。お茶ご馳走さま」
「のぞかさんによろしく」
「うん。またね」