複雑・ファジー小説
- Re: 古の秘宝-LIFE≠00-【キャラ募集開始】 ( No.27 )
- 日時: 2015/03/20 22:58
- 名前: キコリ ◆ARGHzENN9w (ID: nWEjYf1F)
時は進み、夜の10時。
久島の首根っこを引っ掴み、その場を後にした東雲の小さな背中を見送った姫野と香織は途方に暮れていた。
正確に言えば、病院の出入り口に警察が控えているために、身動きが取れない、と言うべきか。
どちらにせよ、二人はこの場から動くことが出来ずにいた。
「屋上には吸血鬼。階下には警察。これじゃ逃げ場ないっすね……」
「えぇ、そうね……せめて、裏口でもあればいいのだけれど」
「甘いっすよ、お嬢。裏口なんて、一般人のウチらが使えるとは思えない」
「そうかしら」
裏口より逃亡——もとい脱出を鑑みる二人。
しかし、一般人は立ち入れないだの、許可を取れば良いだの、様々な論議が交わされる破目に陥った。
そこへやってきたのは、騒ぎを聞きつけてやってきた橘翼。
「誰よ」
「……別に、敵じゃないわ。泡沫香織」
敵ではないと聞けど、自分たちの名前を知っていることにより警戒を解かない姫野と香織。
それに気付いてか気付かないでか、平然と二人に歩み寄った橘は、マイペースに話を進めた。
「安全に脱出したいなら、裏口を使えばいい」
「……はぁ?」
呆れ声を上げたのは姫野。
「裏口なんて、一般人が使えるとでも思ってるんすか? 病院はそんな甘くないっすよ」
「今は非常事態だから監視は居ない。それに、泡沫家の香織様とくれば、裏口を使えるだけの権限くらいあるでしょう」
「大企業の令嬢といえど、やれることは高が知れてるわ」
「自分で言うんだ、お嬢……」
半ば芝居じみた漫才を繰り広げる姫野と香織だが、橘は特に見向きもせず、そのまま背後を振り返った。
「とりあえず、逃げたいなら私についてきて。無事、誰の目にもつかないように逃げれるわ」
白みがかったブロンドヘアを靡かせ、スタスタと歩き始める橘。
姫野も香織も、今ひとつ彼女のことを信用できなかったが、一先ずついていくことにした。
何もせず、このままじっとしているよりは良いだろうと思って。
◇ ◇ ◇
「……男はみんなそうじゃ」
「何が、だ?」
所変わって、同時刻の屋上。
西園寺が黒いカードを目の当たりにしてから、事態は急変していた。
急変の理由は、主に警察にあるが。
「なんでもない。それより、このカードについて説明するとしようかの」
浅野はカードを手に取ると、スーツケースを部下らしき男に預け、そのまま彼を下がらせた。
そして、手にしたカードを見せ付けるかのごとく手の内で弄ぶ。
ヘリのライトに照らされて映えて見える金の文字は、相も変わらず西園寺には解読できない。
「これはブリンツカード。簡単に言えば、クレジットカードじゃな」
ブリンツカードという言葉を聞いて、西園寺は完全に、そのカードの正体を思い出した。
今浅野が手にしているブリンツカードとは、世界中で見ても会員数はほんの数名というかなり希少なカードである。
一見すると、それはただのクレジットカードであり、浅野の言うとおり果たす役割もそれとほぼ同じと言える。
しかしブリンツカードを使うことにより、実行出来る取引の数が大幅に増え、通常では不可能な取引さえも出来るようになる。それこそがブリンツカードの特徴であり、また、それにしかできないことである。
言わば、金さえあれば何でも叶うという、世界中の大富豪の野望を具現化することができるのだ。
たとえば超能力の習得。時間の巻き戻し、乃至は早送り。政治の実権を握る。など。
「……まさか、本当にあったとはね」
「フフフッ、驚きじゃろ?」
そう言いながら、浅野はカードを胸の谷間に挟み込み、代わりに取り出したのは、先ほどの白く上品な扇子。
カードを持つのにも使えるとか、つくづく便利な胸だ——浅野の部下達は、誰もがそう思った。
「このカードさえあれば、そなたの願いは何でも叶うじゃろな。一生分の飯を手に入れるもよし、そなた自身の能力を強化するもよし、こっそりエロ本買うもよし、妾のような女とヤりまくるもよし、じゃ。そのカードに、金が入っているうちはの」
「……それで交換条件に、僕の能力を貸してほしいと?」
「そういうことじゃ。さて、そなたはどうする? この交渉に乗るか、或いは降りるか。それはそなたの自由じゃ」
普通ならば、怪しむところだろう。
しかし西園寺の中では"ある秘策"が出来上がっていた。
いざというとき、それさえ実行出来さえすれば大丈夫という、完全なる秘策が。
だから彼は、浅野の計画に乗った。
「いいよ。その取引、応じよう」
「フフフッ、話の分かる青年で助かった……では皆の者、帰還準備をせよ!」
「はっ!」
浅野の一括により、慌しく動き始める彼女の部下。
支配者による確実な統率力と、部下達が支配者に寄せる絶対的な信頼が無ければ、とても実現など不可能な動きである。
その素早い彼らの動きに、西園寺は素直に感心していた。
「信頼されてるね。真由美さん」
「まあ妾の場合は、部下共と一夜を共に過ごすことで信頼度を上げているのじゃがな」
「……実に貴方らしい」
「それは……褒めておるのかの?」
「……えぇ」
一応と、心の中で付け足しておく。浅野よりカードを受け取りながら。
「——零夜、今から時間はあるかの?」
「あ、あぁ」
「ならば妾と共に来い。今日から3日、部下共と同じことをそなたにしてやろう」
露出した右脚を強調するように、僅かに体をくねらせる浅野。
「——それは、誘っているのか?」
「全てそなたの好きにするがよい。妾の行動に対する解釈もまた然り。何、妾は何をされても抵抗せんよ」
『だ、大胆な人だな……』
実はこの方西園寺、副業でホストをこなしている立派な男である。
なのでその仕事柄、彼は今まで様々な女性と交流をしてきたが、浅野のような女性は始めてであった。