複雑・ファジー小説
- Re: 古の秘宝-LIFE≠00-【キャラ募集開始】 ( No.28 )
- 日時: 2015/03/21 09:50
- 名前: キコリ ◆ARGHzENN9w (ID: nWEjYf1F)
西園寺を伴った浅野が、ヘリコプターに乗って屋上を後にした頃のこと。
背後に姫野と香織を控えた橘は、早足に非常用の階段を駆け下り、只管階下を目指していた。
大人しく彼女の後を追う二人。時折見える外の様子に気をとられながらも、橘のペースにあわせている。
非常用階段を下りてエントランスに出ると、数メートル左に大きな出入り口がある。
こっそり様子を窺えば、パトカーが何台も止まっている光景が見える。橘はエントランスの反対側へと行きたかったが、この状況下では、病院内を睨む警察の目を掻い潜って反対側へと辿り着くのは些か難しい。
ただ、先ほどまで病院の出入り口にて、機動隊をはじめとする警察と病院の関係者たちとがモメていたが、ヘリコプターが屋上から飛び去ったことにより騒ぎは少しずつ収まりかけていた。
これを好機と見てか、橘は後ろに続く二人を誘導しながら一階まで駆け下り、エントランスを思いきり横切る。
警察の目に自分たちが触れていないか心配した三人だったが、どうやら上手いこと反対側まで辿り着けたらしい。
「思い切るわね、貴方」
感心半分、呆れ半分。そんな声で橘を讃えたのは、他でもない泡沫香織。
橘は軽く頷き、先を急ごうとする。が、姫野が息を切らしていたようなので、一時小休止をとることにした。
「だから言ってるじゃない姫野。もう少し体力つけなさい」
「自分運動苦手なんすよ、お嬢……何よりこのキョヌーが邪魔——痛!」
姫野が自分の両胸を手で包んだ瞬間、香織による一発のビンタが彼女に炸裂した。
「貴方も大概小さいわよ! 百歩譲って私よりは大きいと認めるけれど、貴方のも巨乳と言えるほど大きくないはずよ」
冷静沈着ないつもの香織はどこへやら、表情には多分の怒りと反抗意識を含んでいる。
遠まわしに、香織の胸も小さいと言われたのがよほど腹立たしかったのだろう。
「——」
橘はそんなやりとりを傍観していたが、生憎自分の胸の小さいので笑うことは出来なかった。
ふと右手で襟刳りを引っ張り、中に実る2つの果実を眺めてみる。
年齢相応の大きさはあるのだろうが、やはり世間的には小さいうちに入るだろう。橘は、そう看破した。
「お嬢なんて、ブラつけなくても大丈夫なんじゃないっすか?」
「良い度胸ね貴方……その喧嘩、買ってやろうじゃないの!」
唐突に、両者の右手に炎が宿る。
双方とも超能力により引き起こされた現象だが、香織は白、姫野は青という独特の色を放っている。
それらが通常の炎と、同じ温度かと言われればそうではない。
香織の炎は、より熱く。姫野の炎は、氷よりも冷たく仕上がっている。
名は、サンファイアとフリーズファイア。太陽の如き温度を放つ炎と、極端に冷たい冷気を放つ炎の呼称である。
それを見ていた橘は、温度差が非常に大きいのだろうと思った。
証拠として、高温と低温の反作用がこの場に若干の霧を生み出し、それを徐々に濃くしている。
「はい、ストップ」
このままでは本当に争いが起きかねない。
橘は渋々近くの水道を捻り、出てきた水を超能力により遠隔操作して、二人の右手に思い切り振りかけた。
焼け石に水とは言うが、当人達の意思もあってか、炎は一応消火された。
「行くよ。騒ぎは収まったみたいだけど、万一警察に見つかったら色々面倒だから」
踵を返し、橘はさっさとその場を後にする。
香織と姫野も、大人しく休戦して彼女の後を追いかけた。