複雑・ファジー小説

Re: 古の秘宝-LIFE≠00-【お知らせコーナー新設】 ( No.36 )
日時: 2015/03/22 20:16
名前: キコリ ◆yy6Pd8RHXs (ID: nWEjYf1F)
参照: キャラ紹介ページの更新は停滞中です。

 やがて橘と共に、姫野と香織は無事病院から脱出することに成功する。
 しかし香織は、ここでとんでもない事態に気付いてしまった。
 いつの間にか、勇樹がいなくなっているのである。

「逸れたんすかね?」
「橘さん、だったかしら。ここは危険を承知で戻るべき?」
「やめたほうがいい。ミイラ取りがミイラになる」

 戻ろうとする姫野を、橘は両手で制する。

「大丈夫。彼はこの病院の世話になってるから、警察もただの患者扱いで済ませるはず……それよりも早く、この場を離れるべき。彼より私達が危ない。見つかったら、色々と面倒なことになる」
「……そうね。姫野、行くわよ」
「え、戻らないんすか?」
「明日、日を改めて尋ねましょう。そのほうが安全よ」
「はーい……」

 姫野は渋々納得したように、香織の後を追う。
 逃走する道すがら、香織は「お礼に」と橘を自分の家へ来るように誘ったが、誘われた当人は断っていた。


    ◇  ◇  ◇


「これは……脅迫状?」
「……断定は出来ないけれど、内容はそれっぽいわね」

 再び時は遡り、杜若学園の昼休み時のこと。
 風に乗り頬に当たった紙を広げた筧は、そこに書かれている文面を青山と共に読み、内容を脅迫状と仮定していた。
 ——夜20時、市民病院に刺客を送る。
 紙の大きさは比較的大きなものだが、書かれている文は、たったそれだけである。

「今日の20時、なんかあるってことだよね」
「そうね。願わくは、テロか何かでないことを祈るけれど」
「でもそれなら、何でこの学校に送ってきたのかな? 普通なら病院に送ると思うんだけど」
「……今日は風が強いわ。だから、たまたま飛ばされたっていう可能性もあれば、これ自体が単なる悪戯に過ぎない可能性も否定できない。どちらにせよ、今日の20時に何事もなければ——」

 筧が喋っている最中の事である。
 手に持っていた紙が、突然誰かの手により奪われた。
 驚く筧と青山。視線をあげると、そこには金の瞳と黄緑色の短髪が印象的な女子生徒"東雲和泉"がいた。

「ムギっち、ごめん! これちょい見してもらうで!」
「え、えぇ……」
「あっれ? 変態女じゃん。今日もムギのおっぱい触りに来たの?」
「ちょ、静香!」
「うっさい、今それどころやないんや……」

 冗談を真顔で受け流され、ただ事ではないと察する青山。筧もまた、それに輪をかけて察する。
 一方で東雲は目もくれず、猫のような瞳に睨みを利かせ、穴が開くんじゃないかと思えるほどに紙を凝視している。

「……和泉。なにか危ないことに関わってない?」
「否定はせぇへんで、ムギっち。でも、みんなには迷惑かけんと約束するで、信じて」
「私が心配なのは貴方の事よ。迷惑がどうこうっていう話じゃないわ」
「……しゃーないやん」

 東雲は紙から目を離すと同時に、瞳が宿した威光を失って虚ろとなり、紙を畳みながら明後日の方を向いた。

「脅されてるんや、うち。関わらんと、おとんとおかんが殺されてまう……」