複雑・ファジー小説

Re: 古の秘宝-LIFE≠00-【お知らせコーナー新設】 ( No.37 )
日時: 2015/03/22 23:34
名前: キコリ ◆yy6Pd8RHXs (ID: nWEjYf1F)

 男二人と、少女二人がいる。

「……おい。やれ」

 低く鈍い声が響いたのは、コンクリートで囲まれた屋内に、たったひとつばかり蛍光灯がぶら下がる密室。
 緑色の液体を飲まされた、如何にも不健康そうな青白肌の少女が、その声にしたがって両手を前に突き出す。
 細い指の隙間から見えるのは、両手と両足を縛られた一般人の男性。
 怯えた様子でその場から逃げようとしているが、悲しいかな、彼は床に貼り付けられたように動けないでいる。

『ごめんなさい……ごめんなさい……!』

 少女は心の中で、何度もそう謝りながら。

「ひ、ひぃ! やめてくれ、やめてくれぇえ! う、う、うあ、うわあああああああッ!!」

 件の縛られた男に、自分の能力をかける。
 するとみるみるうちに、男の身体は横へと捩れていった。
 例えるなら、絞られた雑巾。少女は能力を用いて、男の全身を雑巾絞りにしている。
 ゆっくりじわじわと迫り、その後で突然に襲い繰る強烈な痛み。
 それは全身の骨という骨が、バキバキと悲鳴を上げて折れている証拠である。

「……」

 男の意識が落ちた原因は、苦痛か、そうでないか。どちらにせよ、男はピクリとも動かなくなった。
 しかし、少女は行動を続行する。
 隣から彼女に命令する男に、愛犬のように忠実に。

 ぐちょりぐちゃぐちゃと、雑巾絞りにされた男の皮膚が、絶えず加えられる張力に耐え切れず裂けていく。
 避けた皮膚の隙間から滴るのは、紛うこと無き血液。床は、一気に赤色に染まっていく。

「——頃合だ」

 黒尽くめの男がそう呟いた瞬間、少女は全身に力を篭めた。
 すると、絞られている男の全身が一瞬にして飛散。少女も男も、飛んでくる液体に目を閉じた。
 飛散した液体の正体は、血液のみならず、内臓などの固形物が全て完膚なきまでに潰れたもの。
 それが血液や体液と混じり、鼻につくような異臭を放つ、人間という名の液体へと変化。
 そのまま一気に絞り上げた勢いで、骨さえも残さず、それは飛散したのである。

「——ちっ、服が汚れたか……まあいい。これで計画は、また一歩前進した。よくやった、キャロライン」

 キャロラインと呼ばれたその少女は、僅かながら肩を震わせている。

『あぁ……また私は、人を殺して……』
「慣れだよ、慣れ! キャロももうそろそろ慣れなきゃ、リン困っちゃうよ?」

 事の成り行きを傍観していた少女"リン・アルエリーナ"が、震えるキャロラインの肩を叩いた。
 その表情は如何にも愉快そうで、瞳はまるで血に飢えているかのような、虚ろな輝きを持っている。

「うぅ、でも……」
「だいじょーぶ、私も最初はそんな感じだったから!」
「そうだ、キャロライン」

 人殺しとは、最初が難しい。どれほど残酷な殺人鬼であっても、皆口を揃えて言うことである。
 二回目以降がどうなるかは個人差があるが。

「人殺しは何れ慣れるもの……このゼルフ・ニーグラスのために、まだまだ働いてもらうぞ」
「……はい」
「ならばよし。おい、リン」
「なんですか?」

 人を殺せるのか。そんな期待に満ちた眼差しで、男"ゼルフ・ニーグラス"を見るリン。

「貴様に任務を与えよう」

 そんな期待に応えてやろうと言わんばかりに、ゼルフの目は邪悪な陰謀に満ちていた。




 ————そんな様子を傍観する、一人の男がいた。




「……やれやれ、所詮はボスか。この勢いだと利用されちゃうぜ? ゼルフさんよぉ」