複雑・ファジー小説

Re: 古の秘宝-LIFE≠00- ( No.7 )
日時: 2015/03/12 17:07
名前: キコリ ◆yy6Pd8RHXs (ID: nWEjYf1F)

「お嬢」
「何よ」

 とある病院の廊下を歩いていると、姫野は遠目に香織の姿を目撃した。
 黒の布地に金と紫の装飾を施した香織の服は、ほぼ白しか視界に映らない病院では非常に目立つ。
 やってきた姫野に向き直った香織。姫野の言いたいことが何かは、この時点でほぼ察していた。

「あの子、目さましたみたいっすよ」

 そして、予想通り。
 公園の真ん中で倒れていた少年を介抱し、救急車に同乗した香織と姫野。
 二人は少年の身柄を暫く預かるために、病院で待機していた。

「そう。じゃあ案内して頂戴」
「了解っす」

 立ち上がった香織を伴い、来た道を戻りかける姫野。
 しかし、振り返った時点で彼女の足は硬直。それは姫野だけでなく、香織も同じく足を止めた。
 そんな立ち尽くす二人の瞳に映ったのは、人質をとっているという、たったそれだけの言葉で十分に足る光景。
 舞踏会で使用される高貴な仮面に素顔を隠した男性が、刃物を右手に握り、左手で少年を抑えているのである。
 抑えられている少年は、香織が介抱した少年と全くの同一人物である。

「何してるんすか? ここ病院っすよ?」

 数秒の静寂がこの場を支配し、最初に口を開いたのは姫野。
 明らかに喧嘩を売っているような口調だが、男は不気味な笑みを湛えたままピクリとも動かない。
 代わりに、皺の寄った色素薄めの唇が動いた。

「私は、君達がこの少年を拾ったと聞いた。ならばこの子の身柄は、暫くでも君達が預かっているだろうと思ってな。少し君達と話をさせていただきたく、ここに参上した」

 しわがれた声。きっちりと整えられている禿かけた白髪。いずれも60代後半と見られる。

「話という割には物騒ね、その右手の刃物。そんなもの無くても、話くらいは聞いてあげるわよ?」

 姫野が男の特徴を視察している間に、呆れたような声で言い放ったのは香織。
 次いで彼女に対して笑い声を上げたのは、依然として頑なに少年を放そうとしない目前の老人。
 何時しか、張り詰める空気は緊迫としたそれへと変貌している。