複雑・ファジー小説
- Re: CHAIN ( No.2 )
- 日時: 2015/03/23 21:33
- 名前: えみりあ (ID: 1SUNyTaV)
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その青年は、闘いの疲れを癒すために、ミネラルウォーターを飲み干し、そして空になったペットボトルを
「なあ、ユリアン。そろそろ機嫌直そうぜ?」
握りつぶした。
「は?」
見晴らしの良い小さな広場。カルタゴの市街が一望できる。ここに至るまでの道順が入り組んでいて、地元の人間の姿は見当たらない。この場所は好条件がそろっていて、精鋭部隊の第一の合流場所に抜擢された。
ノルトマルク軍中佐 ユリアン・オストワルトは広場のベンチに腰かけていたが、鋭いまなざしで上目づかいに見上げた。ユリアンは軍人にしては小柄なからだつきだが、その威圧感は将軍にすら匹敵するものがあった。栗色の髪はオールバックにまとめ、凛々しい顔立ちをさらに引き立てている。
そこらじゅうに当たり散らしたのか、近くのゴミバケツはへこみ、階段の手すりはねじ曲がり、荒れているのがありありと分かる。
周りの者は空気を読み、そうっとしておいたのだが、その空気をぶち破り話しかけたのは、アウソニア軍中佐 ルーカス・ドラゴ。きちっとした身なりのユリアンとは対照的に、ルーカスは肩の少し上まで髪をのばし、右の耳元には編みこみを入れて、軽そうな印象がある。
ユリアンは、この男が苦手だった。見た目がまず、相いれない。そして空気も読まない。読めないのではなく、読まないのだ。そしてなにより……
「そんな面してると、女にもてねえぞ」
やたらと女性の話に触れる。真面目な性格のユリアンには、こういう話が一番精神力を消耗させられた。
「……もう、マーガレット。今どこよ?」
不意に女の話声が聞こえた。ヒスパニア軍大佐 シルビア・アントニオ・モリエンスだ。彼女は携帯電話片手に、さっきから広場の中で行ったり来たりしていた。セミロングの赤毛を後頭部に結い上げ、右前の横髪だけをグレーに染めている。赤い口紅とリングのピアスが妖艶さを醸し出し、凹凸のはっきりしたボディラインと合わせて、とても魅力的な女性だ。
どうやら彼女は、道に迷った仲間に、電話越しで道案内をしているらしい。
「噴水が見える?じゃあ、その噴水の横の小道に入って、そこの石階段を……え?裏路地に入った?……分かった。戻ってその噴水をまたいで反対の小道よ。そしたら……そう!」
ようやく電話の向こうの相手も場所が分かったようだ。ややあって、かすかに足音が近づいてくる。そして、広場に現れたのは
「シルビア?」
おそらく10代と思われる少女。ブロンドの短い髪には、ひと房だけ赤い髪が混じり、混血児であることが分かる。愛嬌のある大きな瑠璃色の目いっぱいに涙をため、携帯電話を握りしめ、華奢な体を震わせて立っていた。
「もう会えないかと思ったよ〜う」
人騒がせなアルビオン軍少佐 マーガレット・チェンバレンはシルビアに抱きつき、その胸に顔をうずめて安心したように微笑んだ。