複雑・ファジー小説
- Re: CHAIN ( No.5 )
- 日時: 2015/03/23 22:57
- 名前: えみりあ (ID: 1SUNyTaV)
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目の前には、銃を構えた何十人もの敵軍。取り囲まれた4人の少年少女たちは、訓練通り背中合わせに立ち、剣を構えていた。……一人を除いて。
「何をしているのだ。さっさと剣を抜かんか!」
腰に下げた無線機の先で、男の声が怒鳴っている。
「おい、大丈夫か?」
振り向きこそしないが、周りの3人も心配そうに伺う。
「だ……だめです……」
剣を構えていない少女は、目に涙をため、体を震わせていた。
「教官……私やっぱり、人を殺したくない!」
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「こんばんは、お嬢さん。良い夜ですね?」
月明かりに照らされて、ハサンの白い歯が光った。不気味な笑みだ。寒気すら覚える。
マーガレットは、静かに腰に下げていたカットラスに手を伸ばした。
———ハサン・ムシャラフ……使用武器はたしか……投げナイフ。
同時に周囲を一瞥する。雑木林の陰に人の気配を感じる。
———部下を連れている。人数は12……いや13人。
素早くその数を数え、またハサンに視線を戻す。
「……ええ、きれいな月ですね。この街は、夜の明かりが少なくて、星までよく見えます」
無視して挑発するのはまずい。まずはご機嫌取りで、敵の警戒心を揺るがせる。
「それよりハサンさん、クライアントの護衛はどうしました?」
その上で相手の情報を得る。できるだけ隠密に話を展開させるため、マーガレットは、慎重に言葉を選んだ。
「長官のことですか?さあ、どうなったのでしょうね?私はもっと面白そうな人の匂いがしたので、つい釣られて来てしまいました」
ハサンは満面の笑みで答えた。何度見ても不気味だ。
———どうしようもなく、自由な人だな……
半ば呆れているマーガレットの背中を、ユリアンは心配そうに見つめた。
「マーガレット……」
その不安が口から漏れ出た。マーガレットは、彼を安心させるため、穏やかな口調で彼に語りかける。
「……ユリアン、あなたはきっと、勘違いをしている」
突然マーガレットがハサンとの会話を切ったため、ハサンたちは身構えた。
「『殺せない』と『戦えない』は、まったく意味が違うんだよ?」
シュンッ
空を切り、ナイフが投げだされた。マーガレットは、身を伏せてそれをかわす。それを合図に、一斉に人影がマーガレットたちに襲いかかる。
「大丈夫。必ず、護るから……っ」
ユリアンはただ、彼女の背中を見つめていた。
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「ひゃっふーぃ!」
「何が『ひゃっふー』だ!隠密行動って言っただろう!」
窓を蹴破って脱出してきたルーカスは、倉庫裏の入り口を見張っていたマクシムに合流するなり、叱責を浴びせられた。
「シルビアが言っていただろう。向こうには、ジブラルタル海戦でヒスパニア軍小隊を一人で滅ぼした、ハサン・ムシャラフがいると!」
ハサンは本隊からはぐれた一個小隊に背後から奇襲をかけ、陸上戦では最強であるはずのヒスパニア軍をねじ伏せたことから、WFUでは要注意人物として名があげられていた。しかし、自由気ままな性格で、仲間内でも評判は良くないようだ。典型的な快楽殺人鬼のタイプである。
そして、それほどに危険人物なのだということを分からせようとするマクシムに対し、ルーカスはとんちんかんなことを答えた。
「俺は同じ闘いで、『アダーラ』の一個大隊を倒したぜ?単純計算で、俺のが10倍強い!」
マクシムは、家屋の屋根から屋根へ飛び移りながら叫んだ。
「お前のことは、誰も聞いていなーーーいっ!」