複雑・ファジー小説
- Re: CHAIN ( No.10 )
- 日時: 2015/03/23 23:50
- 名前: えみりあ (ID: 1SUNyTaV)
第二話:STRENGTH
それは、カルタゴ上陸の1ヶ月ほど前のこと。
まだ寒さの残る晩冬。ルテティア ストラスブール WFU本部。暖房のきかせてある、質素な会議室に集められたのは、各国で活躍する若き精鋭たち。若いながらも、全員が軍人としての誇りと責任を持ち、真剣な表情で指令を待っていた。……一人を除いては。
「……あのう……ここって、精鋭部隊さんの部屋ですか?」
集合時間ほぼジャストに、その部屋の扉をおずおずと開けたのは、まだ子供らしさの残る少女。顔の半分だけを扉の陰から出し、不安そうにこちらを伺っている。
「そうだよ。入っておいで、アルビオン代表の子だね?」
優しい表情で彼女を迎えたのは、マクシム・ブラディ。ルテティアの代表者だった。安心したように、少女 マーガレットは部屋に足を踏み入れ、扉をバタンとしめる。
「よ……よかった……さっき間違えて別の部屋に入ったら、頭がぽやぽやしてて、ひげの長いおじいさんに睨まれちゃって……」
「あー……それ、うちの将軍ですね。ごめんなさい」
丁寧な口調で優しくマーガレットに謝ったのは、アテナイ軍中佐 ソティル・メルクーリ。中性的な顔立ちで、声は高くもなく低くもなく、男か女かがいまいちつかめない。体は全体的に細く引き締まっており、身長は高い。黒い髪は男にしては長く、女にしては短く、そして不思議なことに、光に照らされると鮮やかな青色に見える。
「そうだったんですか!強そうな人だったもんなぁ……あ、私、マーガレットって言います。どうぞよろしく……」
マーガレットは人懐っこい笑顔で、ソティルに握手を求めるが……
「いえ、結構です。御身がけがれますので」
ソティルはそれを断った。見れば、ソティルの両手には、隙間なく包帯が巻かれている。
気まずい空気を破り、話題を切り出したのは……
「みんなそろったんだし、自己紹介しとこうぜ?」
プリンス・オブ・K.Y.ことアウソニア代表 ルーカスだった。
「そう……だな。じゃあ、俺から時計回りにいこう。今回この作戦で隊長を務めることになった、ルテティア代表 マクシム・ブラディだ。よろしく頼む」
パチパチと、簡単な拍手が贈られる。
「すみません、遅れてきました、アルビオン代表、マーガレット・チェンバレンです」
マーガレットは、ぺこぺこ頭を下げていた。
「……ソティル・メルクーリ。アテナイ代表です」
ソティルは先ほどと変わらず、淡々としている。
「お、次俺だな?」
ルーカスが興奮気味に聞いた。自分の番が来て、嬉しくてしょうがないようだ。はっきり言って、うっとうしい存在だ。
「皆さんご存知、アウソニア最強……いや、人類最強の男、ルーカス・ドラゴだ」
全員、リアクションに困った。『嘘つくなよ』と言えないからだ。ここにいるのは、それなりに名の通った精鋭ばかりだが、ルーカスの実力は頭一つ飛び出ていた。
———厄介なのと、チーム組まされたな……
その場にいる全員が顔を伏せる。
「……ごめんなさい、次いくわね?ヒスパニア代表 シルビア・アントニオ・モリエンスよ」
シルビアが、申し訳なさそうに口を開く。
「……俺はリスト・ハグマン。ユトランド代表だ」
流れに乗って名乗ったのは、ユトランド軍大佐 リスト・ハグマン。ユトランド軍の軍服である黒いロングコートの下に、黒レザーの手袋を着用し、下も長ズボンをブーツの中にしまいこみ、いかにも北欧の戦士という身なりだ。さらに、胸元、首、顔は左目と頭髪を残してほぼ全体を黒い包帯で覆っている。肌の隠し方が、厳格なムスリム女性並みだ。
リストは鋭い視線で隣に目をやる。
「俺で最後か……」
青年は息を吸い込み、名乗った。
「ユリアン・オストワルト。ノルトマルクの代表だ」
全員の自己紹介が終わった。マクシムが次の話題を切り出そうとしたとき……
「ジュリアン……?」
思わず口を開いたのは、マーガレットだった。
シルビアは視線を落とす。
ユリアンは、ため息をついてから答えた。
「コテコテなアルビオン読みだな。ノルトマルク語に『J』の発音はない。俺は『ユリアン』だ」
マーガレットはただ、ぼーっとつぶやいた。
「ジュリアンじゃない……」
そして、今度は、笑顔になって、もう一度繰り返した。
「そっか、ジュリアンじゃないんだ!」