複雑・ファジー小説
- Re: CHAIN ( No.12 )
- 日時: 2015/03/23 23:54
- 名前: えみりあ (ID: 1SUNyTaV)
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「おい、こら、ヴィトルト!てめえ、ふざけてんのかっ!」
勇敢にも、その青年は、自軍のトップである将軍の部屋に、ノックもなくドカドカと踏み込んできた。
「ちょちょちょ、ユリアン。俺は一応、君の先輩で、上官なんだからね?」
「んなこと知るかっ!」
ユリアンと言い争っているのは、ノルトマルク軍大佐 ヴィトルト・フォン・マイノーグ。顔の上半分が、分厚いアイベルトで覆われた青年だ。ユリアンを落ち着かせようと、胸の前で手を広げる動作をする。その両手は鈍色で、人形のようなつぎはぎだらけ。そして手のひらには、穴が開いており、奥まで空洞になっていた。明らかに義手である。さらに、左手の薬指には指輪がはめられている。
「……故郷で療養中に呼び出してすまなかったな、ユリアン。先に伝えたとおり、次の殲滅任務には、当初ヴィトルトを出すつもりだった」
すっかり熱くなったユリアンとヴィトルトを見守っていた、ノルトマルク軍将軍 ジェラルド・バルマーが口を開いた。おそらく180は軽く超えているであろう、背の高い壮年だ。彼の顔で、真っ先に目がいくのは、右目の眼帯。若いころの戦傷なのだそうだ。そしてその次が、残る隻眼。肉食獣のような鋭さがある。前髪は7:3にきっちり分けられていて、ユリアンと同じ生真面目さがうかがえる。
ジェラルドは部屋の奥側に、机の上で手を組み、座っていた。
ジェラルドが話しだしたことにより、二人はすっかりおとなしくなった。ジェラルドは厳しい表情のうらに、ほほえましく思う気持ちを隠しながら続けた。
「しかし、ヴィトルトの義母が一昨日亡くなってな。任務まであと3日ではあるが、ノルトマルクの代表は、急きょお前になった」
「俺、喪主やんないといけないしさ……」
バンッ
耐えきれなくなったユリアンは、ジェラルドの机を叩く。
「だから、納得がいかないと言っているでしょうっ!第一、円卓会議はそれを受諾したんですか!?」
「お前の怪我が完治していて、任務に支障がないなら構わないとのことだ。……どうせもう、トレーニングを再開しておるのだろう?」
言い返す言葉がなく、押し黙る。確かに、怪我はすでに完治しており、療養中でありながら、対人トレーニングを再開していた。ここまで来たら、断るのは無粋というものだ。
「……ったく、すごいタイミングで死ぬ婆さんだな。爺さんの方には、空気読めって釘さしとけよ?」
「亡くなった方を愚弄するものではない。安心しろ。めったにこのような偶然は起こらない。今回だけだ」
ユリアンが毒舌を吐くときは、あきらめた時だ。しぶしぶながら、納得したようである。
「……けどさぁ、ユリアン。今回はえらい渋ったよな。ひょっとして、愛しのナイチンゲールが来ないから、行きたくない……とか?」
「え……」
沈黙。微妙な空気が流れる。
「え……うそ、図星?」
ユリアンは、いわゆる、初心だった。この年になって未だに、女性と関係を持ったことがない。ヴィトルトの言葉に、頬を赤らめ……
「……んな訳、あるかぁっ!」
ヴィトルトの眉間に一発、お見舞いした。