複雑・ファジー小説
- Re: CHAIN ( No.23 )
- 日時: 2015/03/24 00:22
- 名前: えみりあ (ID: 1SUNyTaV)
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「やめろぉぉぉぉぉぉっ!」
投与されたのは、幻覚剤だった。
注射をされた当初は、快楽さえ感じるほどゆったりした気分だった。しかし時間がたつと、目の前に恐ろしい幻覚が現れる。その影におびえ、できる限りの抵抗をする。
十分に泣き疲れると、またあの白衣の男が現れる。
「よしよし、よく我慢しましたね。ほら、ご褒美です」
そしてまた、快楽と幻覚の繰り返し。
食事は与えられてどうにか息はしていたが、それだけだった。生きているとは、到底言えなかった。だんだん、精神を削られてゆく。
その状態で、幾晩過ぎただろうか……
また、白衣の男が入ってきた。すでにユリアンは、その姿を認識するのもままならなかった。
「すみませんね。もうすぐここに軍隊が突入します。だから、君に夢を見せてあげられるのは、ここまで……」
そう言って、男が取り出したのは、幻覚剤とは別の瓶。
「だからね、さいごは、本当の夢を見てお別れしましょう」
その『さいご』は、『最後』なのか、『最期』なのか。
とにかく思った。これで、解放される……
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いつのまにか、眠っていたようだ。気がつくと、手足のベルトは外されていた。出口も解放されている。
生きているのか、死んでいるのか、その判断はまだついていない。しかし、希望に満ちた表情で出口に向かう。
……と、その時。
「グルルルルル……」
出口を、黒い影が塞いだ。ユリアンの体と同じくらいの大きさの、狼。
それは、ユリアンを見つけるなり、口を大きく開いた。こちらに突進し、その牙でユリアンの腕にかみつく。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!」
痛みのあまり、叫び声を上げた。すぐさま、狼の腹部に蹴りを入れる。何度も、何度も。
「離せっ……離せよっ!」
とうとうその蹴りが、狼の首に入り、ようやく腕が解放された。倒れてゆく狼の姿に、一瞬だけその正体が重なって見えた気がした。
「バルド……」
入り口から声がした。見ると、白衣の男が立っていた。信じられないものを見たような顔をしている。
「お前……っ!」
考えるより先に、体が動いていた。向こうも応戦し、目にもとまらぬ速さで突っ込んでくる。
———訓練通りだ。まずは、敵の足元を……
渾身の力で蹴りを叩きこむ。今度は上手く決まった。そして、バランスを崩した相手の首元に、蹴りを叩きこむ。
「……よくも……バルドを……」
男が、その言葉だけをどうにか絞り出した。
「え……っ!」
倒れ行く、男の姿に、その正体が重なった。まさかと思って、後ろを振り返る。そして、また手元に視線を戻す。
そこに倒れていたのは、変わり果てた親友二人の姿。バルドとイザベルだった。
「そん……な……っ!」
ユリアンの中で、何かが沸き起こる。怒りとも、悲しみとも言い難い感情。それは、彼が初めて抱いた、憎しみ。
そこで、ユリアンの記憶は途切れた。
次にユリアンが正気に戻ったのは、病院のベッドの上だった。
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イザベルの母親と別れたすぐ後、ユリアンの携帯電話が鳴った。面倒くさそうな顔で、発信者を確認する。
「休暇中まで、お前の声なんて聞きたくなかったんだがな。ヴィトルト」
「まあ、そう言うなって」
いつも通りの応答。離れていても、不思議とそばにいるような感覚に襲われる。こいつとは切っても切れないな……と、ユリアンは苦笑する。
「それで何のようだ。これで『特に用はないんだけど』とか言ったら、後でぶちのめすぞ」
「おお、怖い。残念ながら用はありますよーだ……」
瞬間、空気が変わった。これは、マジなやつだ。
「……変装の天才、エセン・キヴァンジュがドレスデンに侵入した。狙いは99%……分かるよな?」
「っ!」
ユリアンの脳裏に、先ほどの老婆の姿がよぎる。妙に背の高い老婆。
「情報が遅ぇよ、クソ野郎っ!」
すぐさま通話を切り、走り出す。たびたび止まっては、道行く人に聞き込みをする。
———無事でいてくれ……ビアンカ!
