複雑・ファジー小説

Re: CHAIN ( No.24 )
日時: 2015/03/24 00:24
名前: えみりあ (ID: 1SUNyTaV)



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 18歳の時、久しぶりにユリアンは里帰りをしていた。……といっても、任務のためにだが。

「これがドレスデンか……ワルシャワとは違って、静かな街だな」

「ああ。俗なそっちと違って、高尚な文化都市だからな」

 到着早々、ユリアンはヴィトルトに対し、お決まりの毒舌を吐いた。毎回のことなので、そろそろヴィトルトも反応が薄くなっていた。

 今回の任務は『アダーラ』の分派が行っている、密輸の取り締まり。扱っているものは、薬から奴隷まで、違法なものばかり。構成員は拘束、抵抗された場合はその場で切り捨てるよう命令が下っている。

「まあいいや。じゃあ、ちょっと案内してくれるか?」

「ああ。迷われたら、お前看板読めねぇし、こっちが困るからな」

 一言多いよな……と、ヴィトルトはため息をついた。



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 とある宿屋、その地下のパブ。そこは、他のパブとは明らかに雰囲気が違う。内装の高級感がなく、裏社会に向けた場所であることがありありと分かる。

 ドレスデンは、風俗の制限が比較的厳しい。ここに来る客の目的は、表社会で手に入らないものだった。それは麻薬であったり、女を買いに来るものもいる。

 そこに、二人組の客が訪れる。スーツを着ているが、明らかに堅気ではない。二人ともサングラスをかけていて、背の低い方の客は、アタッシュケースを携えていた。

「ここは、会員制だよ」

 客が入ってくるなり、店主が言った。二人はまず、その店主の方に向かう。

「急ぎの用事でね……」

 片方がアタッシュケースを置き、それを開いて中身を確認させる。中には、WFU圏内では使われていない紙幣が敷き詰めてあった。

「100万ディナールだ。これで話はつくか?」

 大柄な方が交渉する。店主は口角を上げ、引っ張り出してきたのは裏のメニュー。その内容を見て、小柄な方が顔をしかめる。

「この薬、在庫はあるかい?」

「ああ。今持ってくるよ」

 店主は奥に入っていき、戻ってくると、今度はいくつかの袋を持っていた。そして、それをカウンターの上に並べる。

 その時……

「はい、危険ドラッグ取締法違反ね?」

 大柄な方の客は、満足そうな笑みを浮かべ、店主の手に手錠をかけた。もう片方は、軍の身分証明証を見せる。

「な……っ!」

 外国の通貨を出してきたので、すっかり信用してしまった。店主は悔しそうに顔を歪める。騒ぎを聞きつけ、奥から仲間と思しき者らが次々現れた。

「ユリアン、奥は頼んだぞ?」

「ああ」

 ユリアンはサングラスを外し、通路を塞ぐ構成員を蹴り倒して行く。銃を構えている者もいるが、ユリアンのスピードの前には太刀打ちできなかった。速攻でユリアンを上回るものは、いない。

 銃を構えるまでには相手のもとにたどり着き、引き金を引くまでに銃を蹴落とす。そして体に回転をかけ、もう一方の足で壁に叩きつける。

 あっという間にユリアンは、最奥の部屋に到達した。そこにいたのは……

「お前……っ!」

 ぎょろっとした眼、白磁の肌。歳をかさみ、顔にはしわが増えたが、忘れもしない、あの男だった。

 なるほどそうか。密輸グループのボスだったら、あれだけの量の幻覚剤も使えるわけだ。
 
 ユリアンはそんなことを考える間もなく

「うあぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 気がついたときには、男の首に一撃をかましていた。

 おそらく即死であっただろう。しかし、10年ぶりに呼び起こされた、ユリアンの衝動は止まらない。

 ユリアンを突き動かしていたのは、まぎれもなく憎悪。

 男の上に馬乗りになり、何度も殴る。手も、顔も、服も、返り血で染め上げられるまで殴る。

「やめろ、ユリアン」

 不意に制止が加わった。ようやく追いついたヴィトルトが、ユリアンの手をつかむ。向こうで闘っていた後だからか、その手はやけに熱く感じられた。

「その人……もう死んでるよ」

 ヴィトルトに抑えつけられ、だんだんと自分が戻って来る。

 すると、ユリアンの頬に涙が伝った。そして気付く。この男を殺しても、彼らの命が還ってくるわけではないことに。

 冷静になると、焦げ臭いにおいがした。近くで火の手が上がっているらしい。

「とりあえず、離れよう。ここは危険だ」

 ヴィトルトに促されるまま立ち上がり、彼に従ってその場を後にした。