複雑・ファジー小説
- Re: CHAIN ( No.28 )
- 日時: 2015/03/24 00:29
- 名前: えみりあ (ID: 1SUNyTaV)
第四話:COMPATIBILITY
殲滅任務から2カ月。季節は冬から春に移り変わっていた。
ノルトマルク南東部国境付近 ポトカルパチェ地方 山間の村。
『アダーラ』による襲撃を受けたこの地に、復興支援のため、WFUはユトランド軍、アルビオン軍、ノルトマルク軍の3軍を派遣した。
爆破された建物、倒壊した家屋。支援といってもできることは、生存者の保護、傷病人の看護、死傷者の確認、そしてあとは瓦礫の撤去作業くらいだ。
「おい、ヴィトルト。そこどけ」
「ちょちょ、ユリアン。怖い怖い怖い!」
ユリアンは、推定150㎏はありそうな瓦礫を軽々と持ち上げている。強化手術のおかげとはいえ、細身の割にたいした腕力である。ヴィトルトはつぶされないように、ユリアンから逃げ回っていた。
開けた場所を見つけ、ユリアンはその瓦礫を下す。ドシンと音がして、周りの小石や砂が跳ね上がった。
「ふぅ……ん?なんだ、ヴィトルト?」
「……いや……」
ヴィトルトは、ちょっと言うのをためらったが、ある方向を指さした。その先にいたのは、アルビオン軍。
「……お似合いだと思ってさ……」
+ + +
「教官!御遺体です!確認お願いします!」
マーガレットは、推定300㎏の瓦礫を持ち上げながら、大声を張り上げた。すぐさま上官がこちらに走ってくる。
「お前……私が確認している間、絶対にそれを落とすなよ。いいか、絶対だぞ?」
「殿下。それ、極東だと『落とせ』って意味になるんですよ……あいたっ!」
やってきたのはアマデウスとシドニーだった。いつものように余計なことを言ったシドニーは、アマデウスの張り手を背中に食らっている。
マーガレットもユリアン同様、軍事施設にいたころに肉体強化手術を受けていた。改血手術と呼ばれ、骨髄を入れ替え、血液の性質をそもそも変えてしまう手術だ。新たに造られる血液は、高栄養、即硬化性のあるものに変わる。
しかし、その成功率は10%にも満たない。それこそ人体実験さながらの手術で、当時の円卓会議では非人道的と問題にされていた。
そして、その手術を耐え抜いたマーガレットは、円卓会議の認知している軍人の中で、最強の腕力を誇る。
遺体の確認と運搬が終わったところでマーガレットは、ズドンと音を立てて瓦礫をおろした。周りにも若干その振動が伝わる。
ふと、マーガレットはその振動で飛び上がったあるものに目がとまった。それは、春の日差しを受けて、銀色に輝いていた。
+ + +
「はははははっ。アルビオン軍は、仲がいいですね」
「はは……いやいや……」
WFU本部 円卓の間。今日その場にいたのは、ユトランド、アルビオン、ノルトマルクの各将軍3人だけだった。中央にはポトカルパチェの現状が中継されている。
アルビオン軍の様子を見て快活な笑い声を上げたのは、ユトランド将軍 アーノルド・フォルクアーツ。実年齢に対し、非常に若々しい男だ。色素の薄い髪に、黒と緑の天性のオッドアイ、頬には古い傷跡がある。顎に生やした髭は、短く整えられていた。膝が悪いので常に杖を突いているが、それにしてはしっかりした体格をしている。
アルビオン将軍 リチャードは、アーノルドに褒められたのやら、けなされたのやら、判別のつかないまま返した。ノルトマルク将軍 ジェラルドは、そんな二人の様子を見て、つい笑ってしまいそうになる。そこで、せき払いでごまかした。