複雑・ファジー小説
- Re: CHAIN ( No.30 )
- 日時: 2015/03/24 00:33
- 名前: えみりあ (ID: 1SUNyTaV)
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「あれ?ヴィトルト先輩、隣のキャンプはどこの軍のものですか?」
「クリスちゃん。説明をちゃんと聞いてた?あれは現地の人の仮設キャンプだよ」
クリスティーネは、ヴィトルトの言葉に恥ずかしそうに顔をふせた。周りからくすくすと笑い声が上がる。
仮設キャンプも就寝時間。各軍が、アルビオン ノルトマルク ユトランドの順に、かわるがわる巡回を交代して眠っている。今はアルビオンの担当時間が終わり、ノルトマルクに交代する時間だ。睡眠を中断されるので、真ん中は正直いって、一番いやな役回りだ。クリスティーネも少し寝ボケている。
「まったく……しっかりしてくれよ?」
「うるさいわね!」
ユリアンにからかわれて、ようやく目が覚めたようである。クリスティーネは頬を赤らめて……まあ、別の意味で赤いのかもしれないが……ユリアンを睨みつけた。
「ほら、グズグズしていないで行くよ。もう、アルビオンの人たちが帰ってくる」
ヴィトルトは先輩らしく指示を出す。他のノルトマルク兵は、眠っている頭をどうにか働かせて付いてきた。
しばらく歩くと、アルビオン軍とすれ違った。相当疲れているようで、みんな眠たそうな顔をしている。ノルトマルクとて疲れが抜けきっていないが、それぞれの配置につく。
この村は三方向を山に囲まれており、守りやすい地形をしている。平地部分に要塞を構えておけば、まず攻められない。そのため未だに、どのようにしてこの村が『アダーラ』に襲われたのかは謎だった。この任務の一つは、その調査である。
とりあえず今は、平地側を中心に軍を配置し、見張りをきかせてある。ユリアンの担当も平地側だった。
ユリアンが持ち場に到着したころには、アルビオン軍は全員、キャンプに戻っていたようである。
———あいつも……眠ったか?
ふっと、マーガレットの顔が浮かんだ。ユリアンは前回の任務以来、急速に彼女のことを意識しだしていた。彼女が安心して眠れるようにこの持ち場を守る。そう思うと、顔が熱くなった。
晴天の夜空には、満月が輝いていた。周りは夜とは思えない明るさだ。道端の花でも、月明かりに照らされると神秘的に見える。ユリアンはその美しさに感嘆していた。
ピューッ
ユリアンが自然の夜景に見入っていた時、奇妙な音が響き渡った。WFU軍が増援を呼ぶときに使う、特別製のピストルの音だった。ノルトマルク軍に戦慄が走る。銃声が聞こえた方向は、警備が手薄になっている傾斜地側だったのだ。
周りのノルトマルク兵は、すぐさま銃声が聞こえた方向に走り出す。ユリアンは彼らを次々に追い抜き、風よりも早く戦場へと駆け抜けた。
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うっそうと茂る森の中、少年は、月明かりを頼りにその中を突き進んでいた。まだ10歳ぐらいのゲルマン系の少年だ。格好から察するに、現地の子供のようである。普通なら怖くて途中で引き返してしまいそうだが、少年は震える足で一歩一歩足を踏み出す。
少年は時たま立ち止り、下を向く。何かを探しているようだった。昼間、この山で遊んでいたときに落としたと思い、ここまで探しにきた。
「こんな時間に出歩いちゃだめだよ」
不意に後ろから声がした。心臓がとびあがるほど驚いた。振り向くとそこに立っていたのは、アルビオンの青い軍服に身を包んだ少女。
「ごめんね。驚かせるつもりはなかったんだ。ただ、みんなが下山するのに、逆方向に進む足音が聞こえたから、つけてきちゃった」
彼女はにこやかに笑って立っていた。その笑顔は月明かりに照らされて、影の濃淡が付き、少し妖しさをまとっている。
「お姉さんは、誰?」
少年は震える声で尋ねた。
「私はマーガレット。アルビオンの軍人だよ」
少女 マーガレットは、ゆっくりと近づき、少年に握手を求める。おそるおそる少年が手を差し出すと、マーガレットはしっかりとその手を握った。幽霊やお化けの類ではないようで、少年はほっと溜息をつく。
「さっきから下を向いて歩いていたけど、何か探し物?」
マーガレットが尋ねると、少年は首を縦に振った。
「形見……お母さんの……」
少年は小さな声で答える。マーガレットは、少し思い当たる節があった。昼間、瓦礫の撤去作業をしていた時に見つけた、銀色に輝く……
「もしかして……これ?」
マーガレットがポケットから取り出したのは、銀製のロザリオだった。それを見るなり、少年の顔に笑顔が広がる。
「よかった、ちゃんと見つかって。それじゃ、帰ろっか?」
マーガレットはそう言って、少年の手を取る。そして元来た道を引き返した。
