複雑・ファジー小説
- Re: CHAIN ( No.32 )
- 日時: 2015/03/24 00:36
- 名前: えみりあ (ID: 1SUNyTaV)
+ + +
ユリアンが銃声のもとにたどり着いた時、もう勝負は着いていた。
森の木々が一部、燃え上っている。そして燃えさかる木々の合間をぬって出てきたのは
「おう、ユリアン。遅かったな」
マーガレットを抱きかかえたヴィトルトだった。マーガレットの方は意識がなく、だらりと腕を垂らしていた。ユリアンはすぐに駆け寄り、ヴィトルトの腕からマーガレットを引きはがす。ヴィトルトの触っていた肩部分やひざ部分が、軽くやけどしていた。
「マーガレットの容体は?」
「分かんね。どうも毒が回っているみたいだから、戻って治療をしよう」
ユリアンは歯ぎしりをして、ヴィトルトに代わり、マーガレットを抱きかかえる。そして風のような速さで山を駆け下りていった。
取り残されたヴィトルトは、燃えさかる木々を見てつぶやいた。
「またやっちまった……どうやって鎮火しよう……」
+ + +
アルビオン軍キャンプ
医務官たちは眠りこけてきたところを叩き起こされ、不機嫌そうな顔でマーガレットの治療をしている。マーガレットの身体に入った毒は、幸いにも毒性が弱いもので、命に別状はないそうだ。
ユリアンはアルビオン軍の許可を取り、マーガレットをテントまで運ぶ。女性用テントの前で、ノックをしようと手を伸ばした時、身体を大きく揺らしたせいか、マーガレットが寝言を呟いた。
「……リ……アン……」
ユリアンの表情が、少し緩んだ。片思いと思っていたが、ひょっとすると勝算があるのかもしれない。
しかし、すぐに表情を戻し、入口を軽くたたく。中から返事があり、すぐに若い女海兵が出てきた。テントの中を見ると、みんなマーガレットのことを心配していたようで、ほとんど全員が起きていた。
ユリアンはマーガレットを寝床まで運び、寝袋を被せる。
「どうもありがとう。マーガレットがお世話になりました」
隣から女が話しかけてきた。このテントの中では年長者のようで、30代ぐらいのしっかりした女性だ。年は少しいっているが、美しい女だ。
つられて他の女たちも小さな声でユリアンにお礼を言う。よくよく見ると、混血な者も生粋のアルビオン人も混ざっているが、全員きれいな顔立ちをしている。
———アルビオン海兵隊の入隊審査に『顔』って項目があるという噂は、本当なのか?
ユリアンは、はにかみながら「どういたしまして」とだけ言い残し、女性用テントを後にする。
自分のキャンプに戻り、寝袋の横に腰を下ろした。
腕にはまだ、マーガレットのぬくもりが残っている。ユリアンは先ほどの彼女の寝言を思い出し
「っし!」
拳を握りしめた。
