複雑・ファジー小説
- Re: CHAIN ( No.33 )
- 日時: 2015/03/24 00:37
- 名前: えみりあ (ID: 1SUNyTaV)
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消火作業はほとんど終わっていた。ヴィトルトが任務先で小火を起こすのは毎度のことなので、ノルトマルク軍の対応は早い。完全に鎮火し、火災の中心地に確認作業が入る。
「う……っ!」
クリスティーネは思わず口を押さえた。そこに転がされていたのは、焼死体が30体ほど。山火事に巻き込まれただけでなく、喉もとや顔を集中的に焼かれた痕跡がある。
「クリスちゃん、女の子が見るようなものじゃない。下がっていていいよ」
ヴィトルトは、クリスティーネの肩をそっと叩く。いつもは律儀に任務を遂行するクリスティーネだが、今回は素直に引き下がった。吐き気を催してきたので、他の兵士たちに見られないように嘔吐する。
ヴィトルトは焼死体を見つめ、手を合わせた。
「ごめんな……こんな死に方になっちまって……」
アイベルトに隠れてその表情は読めないが、その後ろ姿はどことなく物悲しかった。
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「マーガレット、起きなさい!」
翌朝、マーガレットは同僚のヴィオラ・オーウェン=ロイドの声で起きた。このテント内のリーダーで、年はマーガレットより15歳ほど上だ。年はそこそこだが、アルビオン軍内でも名の知れた美女である。
マーガレットは目をこすり、辺りを確認する。毒で倒れた後の記憶がないが、誰かが助け出して、ここまで運んでくれたようである。左足と右腕に、丁寧に包帯が巻かれていた。いつのまにか衣服も、軍服から寝間着に着替えさせられている。……だれが脱がせたのかはこの際、置いておこう。
ヴィオラはマーガレットの寝袋をはぎ取った。
「さっむ!ヴィオラさん、ひどい!」
いくら春とはいえ、早朝である。まだ日が昇ったばかりで、大地もそんなに温まっていない。
「この寒い中、外でお客様が待っているのよ。ほら、さっさと行きなさい!」
マーガレットは寝間着のまま、外套だけを被せられ、テントの外に放りだされた。けが人に対して、とんでもない扱いである。
「あいたたたた……あれ?」
顔を上げると、そこに立っていたのは、小柄で仏頂面の上官 アマデウスと
「君は……昨日の……」
昨晩ロザリオを探していた、現地の少年だった。不安そうな表情でマーガレットを見つめている。
「何を寝ころんでおるのだ」
アマデウスに睨みつけられ、マーガレットは慌てて立ちあがった。寝ぐせで髪がぼさぼさだ。その上、寝ころんでいたので砂や雑草もこべり付いている。アマデウスは嘆息を漏らした。
「あ……あの、お姉さん……」
アマデウスの影に隠れていた少年が歩み寄ってきた。両手で何かを包みこんでいる。
「昨日は、ありがとう。これ、お礼にあげる!」
少年は頭を下げ、小さな両手をマーガレットに差し出した。その手に包まれていたのは……
「素敵……」
露草の葉を編みこんで作った、ロザリオだった。真ん中に露草の花があしらわれている。夜通しこれを作ってくれていたようで、少年は今にも眠ってしまいそうな顔をしている。
「ありがとう!大切にするね!」
マーガレットはそれを受け取り、笑顔で答えた。少年もつられて笑顔になる。そして何度もお礼を言いながら去って行った。
「さてと」とつぶやいて、マーガレットは正面に向き直る。アマデウスが血管を浮き出させて怒っていた。
「マーガレットォッ!」
「うひゃい!」
マーガレットは、ちょっと涙目になって返事をした。アマデウスの怒声は、辺りにいた寝起きのアルビオン兵たちの目を次々覚ましていく。マーガレットは直立不動の状態で、アマデウスの説教を聞いた。内容は今回の単独行動について。朝っぱらから、アマデウスの大声が、アルビオン軍キャンプ中に響き渡った。
