複雑・ファジー小説
- Re: CHAIN ( No.36 )
- 日時: 2015/08/28 22:34
- 名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)
第五話:THE NAME
「「捕縛指令!?」」
ベルリン ノルトマルク軍本部
将軍の部屋に呼び出されたユリアンとヴィトルトは、声をそろえて聞き返した。
季節はすっかり夏。外は日差しが強いが、ノルトマルク将軍 ジェラルドの部屋は、涼しく快適だった。
「そうだ。先月の黒海海戦でアテナイ軍が敗戦しただろう」
ジェラルドはいつものように椅子に座り。机の上に手を組み、説明を始めた。
3ヶ月ほど前、アテナイの黒海沿岸に位置する都市 トゥルチャが『アダーラ』の爆撃を受けた。これを機に黒海を挟んで『アダーラ』とアテナイの海戦になったが、アテナイの軍事力だけではかなうこともなく、大敗を喫した。すぐにアウソニアとヒスパニアの連合軍が支援に入ったため『アダーラ』の進攻もすぐに止まったが。
「その際に、トゥルチャの住民が何人も行方不明になってな。『アダーラ』が関与していることは明らかだ。そこで、居場所を聞き出すために、黒海海戦における『アダーラ』側の将校 ドルキ・レヴェントの捕縛指令が発令された」
後は言うまでもない。また、精鋭部隊の招集だろう。
「今度こそ、お前の番か。なあ、ヴィトルト」
ユリアンはヴィトルトの顔を見上げた。今度の任務にまで借り出されたら、もう三回連続だ。さすがにそろそろ、肩の荷が重い。
ヴィトルトもようやく出番かと思い、期待を抱いている様子だった。
「いや……実はそれがな……」
+ + +
アテネ アテナイ軍本部
ソティルは膝をつき、頭を下げ、嘆願を述べていた。
ソティルが頭を下げている相手は、厳格な顔立ちをした老人。頭髪はほとんど残っていないかわりに、顎鬚をたっぷりと生やしている。見るからに相当な年齢だが、鍛え抜かれた肉体は、まったくその衰えが見られない。
「ゼノン将軍。どうか、お考え直しください」
アテナイ将軍 ゼノン・デュカキスは、そんなソティルの姿を見下し、わき腹を蹴りつける。ソティルは脇にどけられたが、それでもゼノンの行く手を阻んで頭を下げる。
「どうか、将軍……」
「くどいぞ、円卓会議の決定は絶対じゃ」
今度はソティルの顔を蹴りつけた。ソティルは蹴られた方の頬を押さえ、脇に控える。
「今回の精鋭部隊は、US認定者を入れてはならん。任務は『生け捕り』じゃからな。即死効果のあるお前を、入れておける訳がなかろうが」
先ほどの蹴りで口の中を切ったようだ。ソティルはその場に血を吐いた。するとゼノンは、まるで害虫を見つけた農夫のように、ソティルの頭を踏みつける。
「けがらわしい……」
それだけ言い残し、ゼノンは通り過ぎて行った。周りでその様子を見守っていた他のアテナイ兵が、消毒薬とガーゼを持って走ってくる。ソティルが吐いた血を、拭き取ろうとすると……
「いえ、結構です。御身がけがれますので……」
そう言って、包帯が巻かれた手でガーゼを受け取り、自分で自分の始末をし始めた。その眼には、うっすらと涙を浮かべて……