複雑・ファジー小説

Re: CHAIN ( No.38 )
日時: 2015/03/24 00:46
名前: えみりあ (ID: 1SUNyTaV)



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 新たに結成された精鋭部隊は、急きょストラスブールに招集された。クーラーのきいた会議室に、全員が押し込められている。

 今回は一人の遅刻もなく、全員が顔をそろえている。この精鋭部隊の隊長は、今回もおなじみマクシムだった。

「確認しておくが、今回の任務は今までと違って、目標を殺してはならない。そのため、前回から大幅に隊員構成が変わってしまった」

 そこで……と、マクシムは整列した隊員の方を向く。

「任務に支障がないように、一度自己紹介をしておこう。俺が精鋭部隊長を務める、ルテティア代表 マクシム・ブラディだ」

 パチパチと、まばらな拍手が贈られた。

 ユリアンは感嘆する。ルーカスと同じ内容をしゃべっても、マクシムとの間には、カリスマ性という差が生じる、と。

「隊長殿、小官から挨拶を申し上げてもよいだろうか?」

 マーガレットは目を見張る。アウソニアは、ルーカスの後任に、また厄介なのを引っ張り出してきたな、と。

 マクシムに進言したのは、マーガレットより少し年上の、長い髪をポニーテールに結った女性だ。眉はきりっとしていて、目じりはつりあがり、見た目からも口調からも、堅苦しい人間性がうかがえる。

「小官は、アウソニア代表 エリカ・パツィエンツァにござる。以後、お見知りおきを」

 アウソニア軍少佐 エリカ・パツィエンツァは、かみそうな名前にも関わらず、歯切れよく名乗った。

 隣でユリアンの目が訴えている。この後に自己紹介する身になってみろ。このテンションの落差を、どう埋めろと言うのだ。

「……ユリアン・オストワルト。ノルトマルク代表だ」

 案の定、妙な温度差が流れる。もう嫌だ。帰りたい。

「えっと、その……ア……アテナイ代表、リディア・ティトレスクです!少尉ですが、足手まといにならないように頑張ります!」

 ユリアンの影から、つっかえながら自己紹介したのは、精鋭部隊員最年少、アテナイ軍少尉 リディア・ティトレスク。三つ編みのお下げ頭で、リボンで毛先を縛っている。大きな翡翠の目に、丸眼鏡をかけていて、愛嬌のある顔だ。まだ成長期の途中らしく、若干幼児体型である。

「うん。一緒に頑張ろうね、リディアちゃん。アルビオン代表 マーガレット・チェンバレンです」

 とうとうガキ扱いを卒業したマーガレットは、嬉しそうに、そして年上らしくリディアに微笑みかける。こんな表情もするのか……と、ユリアンがつい見とれていると、その隣に立っていた眼鏡の男に睨まれた。

 どこかで見た顔だと、ユリアンは思った。彼はすぐに表情を戻し、自己紹介を始める。

「ヒスパニア代表 ラウル・アントニオ・モリエンス。前任務までお世話になっていた、シルビア・アントニオ・モリエンスの弟です」

 その言葉にユリアンは納得する。年齢的に見て、恐らく双子だろう。切れ長な目が、姉によく似ていた。

 そして同時にユリアンは認識する。この男は、どうもマーガレットに気があるようだ。二人は無言でにらみ合った。

 そんなことには気づかず、マクシムは自己紹介を淡々と進める。

「最後に、君の名前を教えてくれるか?」

 マクシムが尋ねたのは、北欧系の真っ白な髪の少年。さっきからずっと口を開かず、表情も変えず、人形のように立っていた。少年は話を振られ、なぜかスケッチブックを取りだした。

〈ユトランド代表、サク・バーナです。僕の声帯は変形していて、人間の言葉を話せません。でも、耳は聞こえます。できれば、イエス・ノーで答えられるように話しかけてください〉

 サクは、長々と書いた文章を全員に見せる。誰もそれ以上、声が出ない理由は聞かなかった。本人も、きっと聞かれたくないのだろう。

 微妙な沈黙。

 気まずい空気の中、マクシムは遠慮がちに今作戦の詳細を説明しだした……