複雑・ファジー小説
- Re: CHAIN ( No.40 )
- 日時: 2015/03/24 19:43
- 名前: えみりあ (ID: 1SUNyTaV)
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精鋭部隊は、狭い路地を、縦に並んで進んでいた。目標に近づくにつれて、無駄口をたたく回数も少なくなった。今では誰一人、口を開いていない。
ふと、先頭を行くサクの足が止まった。
「どうした、サク?」
次に気がついたのがマーガレットだった。
「この音……機械化歩兵だよ!」
言うが早いか……
ドォンッ
後方から鈍い銃声が聞こえた。明らかに向こうも臨戦態勢だ。
「ここでは分が悪い!走るぞ!」
マクシムの号令で、7人は一斉に走り出す。すると、後方から人間の形をしたロボットが現れた。手には大型の銃。
「携帯式機関砲……!あんなもんで狙われたら、ひとたまりもないぞ!」
ラウルが振り向きざまに叫んだ。機械化歩兵は、すでに第二射の準備に入っている。全員、必死な表情で路地を駆け抜けた。
……とその時
「はぁ……はぁ…………あっ!」
最も体力がなく、ただでさえ遅れを取っていたリディアが転んだ。全員の顔が青ざめる。機関砲はリディアに向けられていた。
ドォンッ
噴煙が巻き起こり、視界が悪くなった。リディアの安否が確認できない。
「リディア!」
マクシムが叫ぶと……
「間一髪だな、次は無いぞ!」
「は……はいぃ!」
とっさに引き返したユリアンが、リディアを抱えて噴煙の中から現れた。大した俊足である。リディアはユリアンの腕の中でボロボロに泣いている。
機械化歩兵が第三射の用意に入るうちに、7人はようやく開けた場所に出た……が。
「おいおい、誰だよ。路地じゃ分が悪いなんていったヤツ……」
マクシムは先ほどの自分の指示のミスを振り返り、自分を責めているようだ。
そこにはすでに、もう三体の機械化歩兵が待ち受けていた。最初の機械化歩兵との間に、完全に挟まれた。
「ラウル!」
マーガレットが叫ぶ。
「ああ!」
マーガレットは、鞘から剣を抜きながら真ん中の一体に立ち向かう。その背後に隠れてラウルは、攻撃態勢に入った。
機械化歩兵の機関砲は、マーガレットを狙っていた。マーガレットは、ユリアンにも劣らぬ俊足で距離を詰め、発射される直前に飛翔し、狙いを自分から外させる。そして、正面の歩兵の流れ弾が後列に当たらないように、その機関砲の上にかかとを落とし、銃口を下げさせた。
ドォンッ
第三射、負傷者は0だ。
マーガレットは、機関砲の上から更に飛び上がった。正面の機械化歩兵はそのすきに、銃口を上げ……ようとした。
「させないよ」
ラウルの目が、眼鏡の下で不敵に笑った。ラウルの袖口からは、細くて丈夫なワイヤーが飛び出ていて、機械化歩兵をからめ取っている。リールを巻く音がして、ワイヤーがピンと張られた。そして次の瞬間……
ブサッ
機械化歩兵は輪切りにされていた。燃料の液体が飛び散り、辺りに油臭いにおいが漂う。
鉄は高い強度を持ち、建物の骨組みや鉄道のレールに利用される。鉄の幅広い用途の理由には、安価で手に入ることと、加工の簡単さも上げられる。
さて、その鉄を加工する道具の一つに、ダイヤモンドカッターというものが存在する。鉄筋はおろか、コンクリートさえ切断する代物である。これは、ダイヤモンドが天然に存在する物質の中でもっとも硬く、もっとも引っかき傷に強いため、あらゆる物質を切断する性質があるためだ。
ラウルの武器は、リール式ワイヤー。表面に粉状のダイヤモンドが散りばめられていて、摩擦を加えるとありとあらゆる物を切断する。さらにワイヤーの素材はケブラー。防弾チョッキなどに使用される、最高強度を誇る繊維である。
ラウルの戦闘方法は、敵の捕縛、および切断。もしこれを対人で使った場合、敵を生かすか殺すかは、彼次第である。
「こっちは僕らに任せて、みんなは後ろを頼む!」
あまりに一瞬のことで、他の隊員はすっかり放心していた。しかし、ラウルの言葉ですぐさま戦闘態勢に入り、後方の機械化歩兵を迎え撃つ。
ユリアンは、複雑な気持ちだった。マーガレットが注意をひきつけ、ラウルが捕縛。二人の連携は完璧だ。だからこそ、気になってしまう。
———アイツら……いつから一緒に戦ってきたんだ……?