複雑・ファジー小説
- Re: CHAIN ( No.42 )
- 日時: 2015/03/29 22:06
- 名前: えみりあ (ID: DdpclYlw)
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「はぁ……はぁ……」
機械化歩兵は、その後も湧水のように次々と現れた。戦闘と移動の同時並行で、リディア以外の精鋭たちも、さすがに疲労が溜まっていた。
「情けねえな、マクシム」
「お前だって、あと十年もすれば、こんなもんさ」
減らず口をたたきながら、ユリアンはマクシムを鼓舞する。しかしそのユリアン自身も、相当息が上がっていた。
そんな中、未だに先頭を走る者がいる。
「すげぇ体力だな……サクは」
サクは向ってくる機械化歩兵の首元にかみつき、導線をちぎっては吐き捨てていた。回路の途切れた機械化歩兵は、その場に倒れこんでゆく。
例えば、水泳や幅跳びなど、基本的な身体能力で世界中の動物を比較してみよう。断言できるが、我々人類は、投擲種目以外ではほとんど勝ち目がない。泳ぎでは、イルカやクジラに勝てない。ジャンプ力では、ユキヒョウやインパラに勝てない。
しかしそんな中で、人間でも確実に上位を押さえられる種目が存在する。
それは、マラソン。
長い距離を走る時、まず必要になるのが、跳ね上がった体温をどのように下げるかという工夫である。つまり、活発な発汗作用がなければ、長時間の運動はできないのだ。地球上で、42.195㎞という途方もない距離を完走できる動物は、馬か人間くらいだとさえ言われている。
そのため、肉食獣のほとんどは、短期決戦の狩をする。
しかし、肉食獣の中にも、持久力を利用して獲物を追い詰める動物は存在する。その動物は、今や最も人間に慣れ親しんだ動物……犬である。
発汗作用により体温を下げる人間や馬とは違い、犬は口を開けて走ることにより身体を冷やす。もちろん、狼も同様である。個体差があるが、時速30㎞で7時間も走ることができる。
加えて、優れた動体視力、嗅覚、聴力、そして人間の3倍の咀嚼力。このすべてを兼ね備えたサクは、ユトランドでヴィルヘルムに次ぐ実力者である。
精鋭部隊が、疲弊しながらも進むことができるのは、このサクが道を切り開いているからだった。
「お気を確かに、リディア嬢。今しばしの辛抱でござる。敵軍将校ドルキは、もうすぐそばだ」
「は……はい……!」
遅れを取っているリディアの後ろには、エリカがスピードを合わせて走り、彼女を励ましていた。
曲がりくねった路地を突き進み、T字路に入った。そこを曲がれば、広場がある。この街の構造上、敵がこちらを迎え撃とうとしているならば、目標は必ずそこに来る。
金属音の混ざった足音がした。それに一番に気がついたのは、マーガレットだった。先頭で戦うことに必死なサクは、その妙な機械音が耳に入っていなかった。
「まさか……装甲騎兵……!?」
マーガレットの予想は当たってしまった。その先の広場で待ち構えていたのは、搭乗式装甲騎兵。機械化歩兵よりもひときわ大きなロボットで、中には人間が入って操作しているようだ。頑丈そうなボディで、アームに機関銃が装備されている。
「くっ!」
すぐさまラウルが、装甲騎兵めがけてワイヤーを発射する。ワイヤーは、装甲騎兵の胴体をからめ捕った。ラウルはすぐさまリールを巻き取るが……
「そん……な……っ!」
装甲騎兵はそのワイヤーを、アームでつかんで、いとも簡単に引きちぎった。今までの機械化歩兵とは、馬力が違う。
ラウルはすぐさま、代わりのワイヤーに取り換える。その時間を稼ぐため、マーガレットとサクが前方に飛び出した。
マーガレットは足を狙った。自分の筋力で持ち上げれば、装甲騎兵のバランスを崩せると踏んだ。しかし、あまりにも重量がありすぎる。装甲騎兵はびくともしない。
サクは右アームを狙った。甲冑の隙間から導線を噛み切れば、アームの機動力だけでも抑えられると踏んだ。しかし、隙間があまりにも狭すぎて、牙が通らない。
[小賢しい!]
突然、装甲騎兵がしゃべった。正確には、搭乗員の声だが。しかし、これではっきりしたことは、中に乗っている人物だ。
マクシムは叫ぶ。
「とうとう現れやがったな、ドルキ!」