複雑・ファジー小説

Re: CHAIN ( No.43 )
日時: 2015/04/01 20:59
名前: えみりあ (ID: fTO0suYI)




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「リディア……」

アテナイ 黒海沿岸の都市 トゥルチャ

アテナイ軍、アウソニア軍、ヒスパニア軍はこの地の復興作業に借り出されていた。

作業の合間、ソティルは黒海を見つめ、そっと呟いた。海の向こうでは今、彼女が戦っている。

「主よ……どうか、あの子をお守りください……」

ソティルは手を合わせ、天を仰いだ……



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 装甲騎兵の振り上げたアームは、マーガレットを狙っていた。

「っ!?」

 マーガレットはとっさに反応し、装甲騎兵から手を離す。

「マーガレットさん、援護します!」

 リディアが構えているのは、いたって普通のピストル。装甲騎兵のアームを狙い、引き金を引いた。

 パァンッ

 銃弾は命中した。

「え……!?」

 マーガレットの足に。

 振り下ろされたアームは、動けなかったマーガレットの身体を正確にとらえ、彼女の体を吹き飛ばす。

「がっ……!!」

 壁まで吹き飛ばされたマーガレットは、その衝撃で気を失っている。

「何をやっているんだ、お前は!?」

「ひぃ!……ご……ごめんなさい!」

 ユリアンに怒鳴りつけられ、リディアがまた涙を浮かべる。

———アテナイは、何を考えてこの子を!?

 マクシムも信じられないものを見たように、その光景を見つめる。

[ふん、統率のとれていない部隊だな……まずは、その女から消してやろう]

 冷酷なドルキの言葉が響く。銃口は、倒れて動けないマーガレットを狙っていた。

「マーガレット!」

 ユリアンが駆け寄ろうとするが、それよりも先にリディアが動いた。彼女は、マーガレットの上に覆いかぶさるように、装甲騎兵に背を向ける。

「何を……!?」

 ユリアンが呟いた直後

 ダダダダダッ

 連続して銃弾が撃ち込まれた。リディアはマーガレットをかばい、その全弾を受ける。

「リディアーーーーっ!!」

 マクシムが、声の限り叫んだ。砂埃が巻き起こり、彼女たちの姿を隠していく。ややあって煙が晴れ、二人の様子が見えた。リディアのむき出しの背中からは血があふれだし、そして……

「大丈……夫です……っ」

 再生が始まっていた。

 人間の臓器移植では唯一、その臓器を半分だけ切り取って移植できる臓器がある。それは肝臓。高い再生能力を持つ肝臓は、半分の体積になっても、数カ月あれば完全に元通りになる。

 その理由としてあげられるのは、肝臓が多核細胞であること。

 通常の細胞は、細胞内に核を一つだけ持つ。多核細胞とは文字通り、核を複数持つ細胞だ。

 リディアの身体を構成する細胞は、すべてが多核細胞。活発な細胞分裂により、傷口はすぐさま修復し始める。リディアは、アテナイによって生み出された『死なない』軍人。これこそが、アテナイがリディアを精鋭部隊に選出する理由。

「マーガレットさんは、私が守ります!みなさんは、そっちをお願いします!」

 リディアはあらん限りの声で叫んだ。それに答えるように、5人は装甲騎兵に立ち向かった。