複雑・ファジー小説

Re: CHAIN ( No.44 )
日時: 2015/04/02 19:51
名前: えみりあ (ID: fTO0suYI)

「俺とエリカとサクでたたく。そのすきにマクシムとラウルは武器を交換しろ!」

 ユリアンが大地を強く蹴った。超人的な跳躍力で、狙うはヤツの目……

 ピシッ

 モニターカメラのレンズにひびを入れた。装甲騎兵のアームが、ユリアンを捕えようと振り上げられた。ユリアンはすぐさま、水平に踏み切り、空中に飛び出す。宙返りをして着地。その間に距離を取る。

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 それに合わせて、脚部パーツにエリカの渾身の一撃がたたきこまれた。装甲騎兵のボディを凹ませる。

 槍は、有史以前から使用されていた、刺突を目的とする武器である。その有用性から、銃剣にとって代わられるまで、長いあいだ戦場で花形を担ってきた。

 しかし、この槍も道具であるため、いずれは老朽化し、壊れてしまう。もしその故障が戦場で起こり、もし戦えない状態に追い込まれた場合、槍兵はどのようにして対処するのだろうか。
 
 戦場に絶対はない。何が起こっても、敵を討てるように生み出された武術、それが……

「これぞ、神の鉄槌だ!」

 否。アウソニア式棒術である。エリカの武器は、相当な重量のある超合金製棍棒。一撃で鋼鉄を打ち砕く。

[なん……だと!]

 ドルキは相当焦っているようだ。視覚モニターと右足パーツを損傷したのだから、無理もない。

「まだまだ、ここからだぞ!」

 続けて、マクシムの拳が右足パーツにたたき込まれ、完全に片足をもぎとった。

 マクシムの手には、いつもの手之内ではなく、鈍色のガントレット。防具として扱われるそれも、マクシムの拳に被せれば立派な武器である。

「次こそ逃がさない!」

 それに続けて、ワイヤーの交換が終わったラウルは、両腕から同時にワイヤーを発射し、装甲騎兵の両アームに巻きつける。そしてすぐさまリールを巻く。

 ゴトリ……と音がして、装甲騎兵の両アームが切り落とされた。次に、胸部パーツに右手のワイヤーを巻きつける。両腕がなければ、抵抗の余地もない。コックピットが切断され、中身があらわになり、操縦者が現れた。白髪の交じった初老の男。

「グルルルルルッ」

 サクがその切り口に飛び乗り、ドルキの襟元をくわえた。そして首を回し、ドルキの身体を空中に放りだす。

 それに対応して、ラウルは残った左腕のワイヤーを、ドルキに巻きつけた。

「目標、確保!」

 歓声が上がった。任務完了だ。

 地面にたたきつけられたドルキは、完全に気を失っている。目を覚まさないうちに、マクシムが手錠をかけ、ラウルがワイヤーでしっかりと拘束した。

 その間に、ユリアンはリディアとマーガレットのもとに駆け寄る。リディアは、マーガレットを抱きしめたまま震えていた。ユリアンがリディアの頭に手を置くと……

「よかった……終わったんですね……」

 安どの表情を浮かべ、また目に涙をためていた。

「ああ。お前がマーガレットをかばってくれたおかげで、死者は0だ」

 そう言ってユリアンは、上着を脱ぎ、リディアに被せる。

「へ……?何でこれ?」

 リディアが上着を脱ごうとすると……

「いいから、着ておけ。今のお前の格好は、何というか……男には刺激が強すぎる」

 そう言われて気がついた。銃弾を受けた背中は、肉体は元通りとはいえ、服は元に戻っていない。つまり、リディアの背中は……

「ひぃやぁっ!ユリアンさんの、ばかぁっ!」

「ちょっと待て、俺はなんにも悪くないだろう!」

 リディアは顔を赤くして、また涙目になり、ひたすらユリアンを殴り続けた。