複雑・ファジー小説

Re: CHAIN ( No.47 )
日時: 2015/04/04 20:25
名前: えみりあ (ID: fTO0suYI)

第六話:FOREVER



5月28日

 いつもは研究室にいるばかりのお父さんが、今日はお外にお仕事に行きました。

 お父さんはいつも、鳥のようなお面をかぶって外に出ます。それは何のお面なのか聞いてみました。お父さんは「ご先祖様たちが使っていたお面だよ」と言って笑いました。

 自分は、そのお面をかぶってみたいと言いました。お父さんは「お前には、まだ大きいよ」と言って、触らせてくれませんでした。

 いつか、そのお面をかぶれるくらい大きくなれば、自分もこの家から出してもらえるのでしょうか?



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 アテナイ トゥルチャ

 春から夏に移り変わる頃、黒海沿岸のこの街が、一夜にして戦場へと化した。

 黒海に浮かぶ、軍艦の甲板。その船には、異様に大きな焼却炉が取り付けられていた。遺体はつぎつぎその中に投げ込まれ、可燃物のように処理されている。その傍らでソティルは手の包帯を巻きなおした。そして無線機を手に取り、現状を報告する。

「ソティルです。敵軍三隻は沈めました。現在、遺体の処理に入っております」

 指示がいくつか通り、ソティルは無線を切った。無線機を下ろすと、ソティルの手が別の人物の頭部にぶつかった。

「リディア……どうしました?」

 リディアは、炎に包まれてゆく遺体を見つめ、泣きそうな顔をして震えている。ソティルの軍服をつかみ、背中に顔を押し当てていた。

「ふぇ……怖いです……」

 涙に加え、鼻水までこすりつけられている。ソティルは溜息をつき、リディアの頭をポンポンとなでた。

 ソティルは思う。

 今この感じる、この温もりこそが、己の守るべきものだと。



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「マイ・スウィート・ハニー!」

 ローマ アウソニア軍本部

 ルーカスの声は、廊下に響き渡る。周りのすれ違う人々は、自称世界最強の男を、白い目で見つめていた。

「ルーカス殿!破廉恥でござるぞ!それも、よりにもよって、枢機卿猊下に向かって……!」

 エリカが廊下中を振動させるような声で怒鳴りつけたが、隣に立っていた女性がそれを制止する。

「ルーカス。公の場では、みだりにそのような言葉で、女性を惑わせてはなりません。そして、立場に合った言葉づかいをしなくてはなりません」

 凛とした言葉でルーカスを諭したのは、アウソニア将軍 ドロテア・ジョルダーノ。枢機卿にして、7将軍の紅一点である。長い黒髪は頭頂部に結わえられ、前髪は大きく左右に分けられている。

 上品そうで整った顔立ちをしているが、相当な年だ。いくらなんでもルーカスに「ハニー」と呼ばれる限度は超えている。

「ごめん、ごめん。長いこと、ドロテアの顔を見られなかったから、つい……」

「2日前にも、お会いしなかったかしら。ルーカス?」

 ドロテアは、ルーカスを冷たく突き放す。しかし、ここでめげないのが、ルーカスという男だ。

「たとえ、一分、一秒でも、君から離れている時間ほど酷なものは無い!」

 そう叫んで、大きく両手を広げる。周りの者は、白い目を通り越して、もはや軽蔑のまなざしだ。

 ドロテアとエリカは、そんなルーカスの横を素通りしていった。