複雑・ファジー小説

Re: CHAIN ( No.48 )
日時: 2015/08/28 22:37
名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)

 

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 6月7日

 今日もお父さんは、研究室に引きこもっていました。難しそうな顔をして、試験管を眺めていました。

 とうとう今日、どうしてお父さんが、自分を外に出してくれないのかを聞いてみました。お父さんは、また笑ってごまかしました。ただ「お前は外に行きたいと、わがままを言わないね。いい子だ」って誉めてくれました。

 でも、自分がいい子だったら、どうしてお父さんは自分の頭をなでてくれないのでしょう……



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「怖いよな、アイツ……」

「触っただけで、人を殺せるんだろ……」

 アテネ アテナイ軍本部

 当時ソティルは10歳だったが、すでにAS認定を受けて、軍務についていた。しかし軍内での立場は悪く、常に孤立していた。AS認定を受けるほどのその力を、周りの人間は恐れていたのだ。

———別に、直接触らなければ平気なのですが……

 今日もソティルは、食堂の端っこで食事を取っていた。真ん中に寄ると、みんなに嫌がられるからだ。これまでも突き飛ばされたり、悪い時は水を掛けられたりした。

食堂も、食べる行為を許されているだけであって、サービスの利用は許されていない。理由は、ソティルの使った食器に触れただけでも死人が出るからだ。いつも、外の売店で買った個包装の食べ物しか、食べることを許されていなかった。

 どんな言葉も、どんな暴力も、ソティルにとっては当たり前のこと。いちいち傷ついている時間はなかった。気にしては負けてしまう。

 今日も一人、パンの袋を開け、パックの牛乳で喉をうるおしていた。

「おとなり、しゅわっても、いいでしゅか?」



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「敵軍一隻、こちらに向かってきています」

「迎撃態勢に入れ」

 遠方を確認していた見張り台が指示した。すぐさま主砲に弾が詰められ、狙いを定める。

「……妙です……」

 ソティルは船の方向を見て呟いた。リディアは不安そうな顔でソティルを見上げる。

———最初の三隻で、船上戦はこちらに分があることは、ヤツらにも分かったはず。それでも単騎で乗り込むとは……

 主砲の狙いがそれるだろうとか、そんなくだらないことは後だ。今は、目の前の攻撃に備えなければならない。

「取り舵……後方に撤退です」

「え?」

「早く!!」

 ソティルは操縦室に乗り込み、操縦員に怒鳴りつけた。威圧された操縦員は、考える間もなく舵を切る。船が大きく揺れた。その直後……

 ドンッ

 アテナイ軍船に向けて、ミサイルが打ち上げられた。丘からではない。かなりの至近距離だ。

「水中発射式噴進砲!?実用化していたのか!?」

 打ち上げられた地点は水中。事前に予知していなければ、不可避である。

 水中発射のミサイルは、着弾までの距離が短縮される分、威力が落ちる。海戦に使用するとは前代未聞だったが……

 避けきれなかった近隣のアテナイ軍船から火の手が上がり、水しぶきを上げて沈んでゆく。

「ひぃぃっ!!」

 リディアは、必死にソティルの足にしがみついた。ソティルは片足におもりをつけたまま、船内を走り回る。

「戦闘準備です!!潜水艦が来ます。魚雷にも警戒してください!!」

 ソティルが言うが早いか、海面から次々船が浮き上がってくる。ソティルは、その手の包帯を解いた。