複雑・ファジー小説
- Re: CHAIN ( No.50 )
- 日時: 2015/04/19 11:28
- 名前: えみりあ (ID: fTO0suYI)
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ソティルは耳を疑った。
食堂にはまだ空きがある。ソティルの隣に座る必要性は、微塵もない。しかし今、誰もが近寄らないようにしているソティルに、進んで声をかける者がいた。
ソティルに声をかけたのは、4・5歳と思われる幼女。つぶらな瞳の、可愛らしい少女だ。
「あ……その……どうぞ……」
ソティルは遠慮がちに、隣の椅子を引いた。少女は軽く会釈して、腰をかける。そして、うろたえるソティルの横で、大切そうに抱えていたメロンパンを取り出し、大きく口を開けて頬張った。
「ん〜おいしいでしゅ〜」
ほっぺたを押さえ、幸せそうな表情を浮かべている。その笑顔は、まさしく天使のようであった。
「あ……あの……」
ソティルは、食事が手につかなくなり、隣の少女を見つめていた。自分が食べていないのに人の食べている姿を見物するというのは、本来は行儀が悪いこととは分かっている。しかし、生まれて初めてのその経験に、ソティルは動揺を隠せなかった。
「どうして……ここに座ったのですか?」
耐えきれず、少女に問いかける。きっと、何も考えていなかろうが……
「だって、ようちえんのせんせいが、いっていたんでしゅ。なかまはずれは、だめだよって」
少女は、さらりと答えて微笑んだ。
アテナイ軍に入ってからというもの、一人でいることが当たり前になっていた。周りに同年代の子供はおらず、大人たちは怯えて近寄ってこず、高官たちには人以下として扱われていた。純粋なその少女の言葉は、ソティルの凍りついた心にしみわたり、ソティルに人間を呼び起こさせた。
「なかま……」
ソティルは少女の言葉を繰り返す。すると……
「そうでしゅ。リディアはあなたの、なかまでしゅ」
そう言ってソティルの手を取った。ソティルは青ざめた顔で、その手をふりほどこうとしたが……
「そんな……何で死なないのですか……?」
ソティルは今まで、手に触れた者すべての死を見届けてきた。しかし、少女リディアには、何の変化もない。こんなことは初めてだ。
「リディアは、しなないでしゅ」
リディアが笑顔で笑いかける。
どうやらその言葉は真実らしい。ソティルはそれを確認し、安心する。それと同時に、ある希望が芽生えた。
———この子となら……こんな自分でも友達になれるでしょうか?