複雑・ファジー小説

Re: CHAIN ( No.51 )
日時: 2015/04/26 19:54
名前: えみりあ (ID: fTO0suYI)




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 ストラスブール WFU本部 円卓の間

———妙だ……

 ユトランド将軍 アーノルド・フォルクアーツは、左隣に座る老人を見て思った。アテナイ将軍 ゼノン・デュカキスは円卓会議の際、いつも最初に円卓の間に入っている。そこには彼なりの配慮と、信念があることを、アーノルドは知っていた。

 しかし今日、ゼノンは珍しく一番最後に、しかも時間に少し遅れて入ってきた。彼は7将軍の中では最年長なので、さすがに咎める者もいなかったが。

———明らかに、何かの指示を出した後だ。いったい、何を隠している……?

 アーノルドは自身の経験上、他の将軍たちの癖をよく知っている。グェンダルは何かあると背もたれに寄りかかるし、セレドニオは頬杖を突く。そんなことに敏感なアーノルドは、ゼノンが何かを隠していることにいち早く気がついた。

「さて、諸卿。『アダーラ』のトルコ地区での動きについてだが……」

 グェンダルは、さっそく話題を取り上げた。どうせ『アダーラ』直上のルーシ連邦か、西側大陸のコロンビア連合から得た情報だろう。軍務連絡とか言って、ルテティアの武器である情報網の大きさを誇示している。

 アーノルドはグェンダルの話も聞きながら、ゼノンの様子をうかがっていた。思いすごしかもしれないが、違和感の種を探る。

 ヴヴヴ……

 グェンダルの一人演説の最中、中央に立体映像が現れた。アーノルドは、視線をゼノンに戻す。ゼノンのひげの口元が動いた。

———ほら見ろ……

 ゼノンは何かあると、唇をかみしめる癖がある。アテナイ関係で何かが起こったことは、一目瞭然だった。

 何か来る。

 アーノルドだけではない、他の6人もみな、その陰に身構えていた……



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 敵艦隊、9隻沈没……

 ソティルは沈みゆく戦艦を見つめ、戦況を確認する。そして後方、自軍の兵士たちの確認を取った。けが人や死者はいるが、まだたくさん生き残っている。

 しかし、彼らの士気は下がっていた。

「まさか……あんな数の潜水艦を持っていたなんて……」

 海上の船は、圧倒的にアテナイ軍が多い。しかし戦況は『アダーラ』が優勢だった。『アダーラ』は潜水艦を多く取りそろえ、アテナイ軍を攻撃する一方でアテナイ軍の後方に回り込んでいた。もう数分もすれば敵船隊はトゥルチャに到着し、戦闘準備が整う。そうなれば、陸と海から挟まれてしまう。

「そんな……援軍を頼めないって……」

 不意に聞こえた、上官の話声……その瞬間、兵士たちの顔色が青ざめた。

———とうとう、見捨てられたのでしょうか……

 リディアはまだ、状況の深刻さが分かっていないらしかった。心配そうにソティルを見上げている。

———そうです……この子を守るために、自分が動かなくては!

 ソティルは船内連絡室に入り、行動を起こした……