複雑・ファジー小説

Re: CHAIN ( No.58 )
日時: 2015/05/30 21:00
名前: えみりあ (ID: fTO0suYI)




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「今期も、座学の首席は、マーガレットだ」

 王立ロイヤルナヴィアカデミー

 講義室に集められたのは、13歳の子供たちが50人。そしてその前に立って教鞭をふるうのは、この国の若き第二王子 アマデウスだった。

 アマデウスは少し前に行われた戦史のテストの答案を手に、その女子生徒を呼び寄せる。彼女が歩くごとに背中まで伸びたブロンドの髪が揺れ、ふわりとせっけんの香りを漂った。誰もが息をのみそうなほど美しい少女だが、なぜだか目を伏せている。輝かしい成績であるはずなのに、マーガレットの表情は沈んでいた。

「マーガレットって、座学はすごいかもしれないけど、実技はダメダメなんでしょ?」

「なんか、頭いいからって、俺らのこと見下しているよな」

「親もいないくせに」

「おまけにアイツ、アルビオン人じゃねぇし」

 周りから集められる視線は冷たく、マーガレットはただそれに耐えていた。自分では何が悪いのか分からないが、このころのマーガレットは、同じ施設に育つ子供たちにいじめを受けていた。体力面で劣っていること、親がいないこと、混血児であること、さまざまな因縁をつけられては言葉の暴力が振るわれる。

 今期のマーガレットの成績は、座学1位、戦闘実技48位。総合的にみると中間あたりのはずだが、どんくさい性格のため、周りからの印象は良くない。そこで、実技の面で嫌味を言われていた。

 マーガレット自身、自分が押しに弱い性格で、そのうえ力で敵わないことを十分に理解している。そのため、周りに浴びせられる罵声に言い返す勇気がなく、ただただ黙って耐えるほかなかった。

 しかし、一つ、救いがあるとすれば……

「負け犬の遠吠えだな。要は、マーガレットに頭じゃ敵わないのが悔しいんだろ?」

 かばってくれる友人に恵まれていたこと。

 ジュリアン・モリスは、凛とした態度でマーガレットの後ろに並んで立っていた。襟足の跳ね上がった黒髪、黄金の双眸、きりっとした顔立ち。その容姿は、どことなく近寄りがたい印象を与える。

 テストの答案は成績順に返される。ジュリアンは、マーガレットの次に必ず名前を呼ばれる自信があったので、アマデウスが呼ぶ前からそこに立っていた。

 ジュリアンの言葉に、周りの生徒は悔しそうに口をつぐむ。彼が出てくると、誰も言い返せなかったのだ。

 ジュリアンの成績は座学2位、戦闘実技1位。総合的に見て、文句なしのトップである。彼の発言には誰もが一目置いていて、彼はこの集団における影の支配者だった。

「ジュリアンの言うとおりだぜ、バーカ」

 教室の後方からも、マーガレットをかばう声がした。彼もまたマーガレットの数少ない味方、クィンシーである。クィンシーは黒人の少年で、人懐っこい笑顔が特徴的だ。13歳にしてはまだ小柄で、大人の職員によく可愛がられている。

 そして彼は、捨て子だったために名字がない。そのせいか、境遇の似ているマーガレットのことを気にかけてくれていた。

 が……

「よく言ったな、クィンシー。だがお前は、人に『バカ』と言う前に、それを言っても許される頭脳を持て」

 すぐさまアマデウスの叱責を受けた。クィンシーの成績は戦闘実技3位、座学は最下位の50位だった。マーガレットとはまた、対照的な成績である。

 周りの生徒の笑い声が聞こえた。クィンシーは、恥ずかしそうに頭をかいている。

 マーガレットはそんなクィンシーを見つめて、ようやく笑顔を浮かべた。