複雑・ファジー小説

Re: CHAIN ( No.60 )
日時: 2015/06/13 09:41
名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)




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ナヴィアカデミー 裏庭

 柵の向こうにはテムズ川が見え、見晴らしの良い開けた場所。ここが気に入っていた3人は、いつもここで昼食を取っていた。

「なぁ、ジュリアンは純粋な白人なのに、どうして俺たちを差別したりしないんだ?」

 唐突にクィンシーが切り出した。ジュリアンは予想もしていなかった質問にとまどっている。

「いや、だってほら……パトリシアとかはあからさまに白人至上主義じゃん。だから、ジュリアンは何でかなと思って……」

 クィンシーが付け加えると、ジュリアンは少し考えてから口を開いた。

「……クィンシー、テムズ川は何という海につながっているか、知っているか?」

 アルビオン人なら即答できるであろう質問だ。だが、ジュリアンはあからさまに分かっていないそぶりを見せている。ジュリアンは溜息をつきながら正解を言う。

「北海だ。北海」

「あーあー、北海ね。有名な、あの……」

 この様子には、さすがにマーガレットも苦笑を隠せなかった。ジュリアンは、クィンシーがあまり分かっていなさそうなので、無視して続けた。

「北海の向こうには、大陸があるだろ。そこには白人も黒人も黄色人種も、同じ大地に生きている。だが、宗教の違いか民族の違いかで、200年も戦争を続けているんだ」

 マーガレットには別段新しい情報ではなかったが、記憶力に乏しいクィンシーは、繰り返し、初めて聞いたような顔で聞き入っている。

「俺たちも、この戦争がなければ、今こうして人殺しの技術を学ぶ必要はなかったはずだ。……ここまでは分かるか?」

 クィンシーは首を縦に振った。他の二人は、その嘘を見抜いていたが。

「……とにかくだな、人種差別はした方が負けだ。肌の色や宗教で人間を区切るゲス野郎がいるから、やれ『俺の親は○○人に殺された』だの騒ぐクソ野郎が出てくる。それの繰り返しで戦争がおこり、俺たちが戦場に駆り出される。同じ人間だと認めて、いつかはお互いに許しあわなければ、また戦の繰り返しだ」

 マーガレットは目を見張った。いつもはクィンシーに授業で習うようなことしか教えないジュリアンが、新しい自分の考えを示している。クィンシー同様、マーガレットもジュリアンの話に聞き入り始めていた。

「俺は、俺たちみたいな戦争のために生み出される子供が現れないように、この戦争を止めたい。自論だが、そのためにはさっきも言った通り、同じ人間として敵を許すことが肝心だと思う。だから俺は、そもそもクィンシーを黒人と区別していないし、マーガレットも混血だとは思わず、同じ人間だとだけ考えている。ただそれだけだ……理解したか?」

 二人は首を縦に振った。……どうやら、クィンシーは理解していないらしいが。

 しかし、そんなクィンシーにも伝わったことは……

「そうか……ジュリアンはすげー夢を持っているんだな……」

 ジュリアンの最終的な目標。それからクィンシーとマーガレットは、不正を許さない、彼の純粋な精神に感心していた。

「……ねぇ、ジュリアン。その夢、私も乗っかっていい?」

「あ、俺も俺も!」

 二人は目を輝かせて、ジュリアンに詰め寄った。ジュリアンは照れたように、そして嬉しそうに

「好きにしろよ」

 一言、ぶっきらぼうに答えた。