複雑・ファジー小説

Re: CHAIN ( No.61 )
日時: 2015/06/20 21:36
名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)



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 数日後、クィンシーがいなくなった。

「クィンシーは第3タームだから、すぐに手術を受けられるんだね」

 マーガレットが、笑顔でジュリアンに語りかける。

 マーガレットたちは、強化手術の順番を待ちながらここ数日を過ごしていた。

 マーガレットたちの受ける強化手術は、非常に難易度が高いそうで、手術を許可されている医師が5人しかいない。そのため、50人の子供たちは10回のタームに分けられて手術を行うことになった。クィンシーは第3ターム、ジュリアンは第7ターム、マーガレットは第10タームだ。

 ジュリアンはあまり表情に出さなかったが、それでも楽しみなようだった。

「……アマデウス教官が言っていたんだけどさ」

 ジュリアンが何やら話し出した。

「この強化手術を受けると、身体能力の差は小さくなるらしい。つまり、実技の成績がほとんど無効になるんだ」

 ジュリアンはそう言って、マーガレットの方を向く。そして彼女の長い髪をくしゃくしゃとなでた。

「ちょっと、ジュリアン……痛い……」

「せっかく頑張ってきたのに、お前にトップの座を奪われる身にもなれ!!」

 ジュリアンは髪の毛をつかんで、マーガレットの顔を上げさせる。怖い口調で言った割には、彼の顔は笑っていた。

「……けど、良かったな。これで……」

 ジュリアンはその先は言わなかった。マーガレットが気にすると思ったのだろう。

———これで、お前をいじめるヤツは、いなくなる……



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「…………」

 アマデウスは、悲痛な表情で病室の隣に立っていた。ガラス窓越しに、何本もの管につながれた教え子の姿が見える。

 ピーピー

 その少年の容体に変化があったようだ。器具から、大きな電子音が鳴り出しだ。それはまるで、この少年のために泣き叫んでいるように。

 すぐに医師たちが飛んできて、少年の様子を見る。眼球に光を当てたり、脈を取ったり……そして、散々少年の身体を調べ上げた挙句に一言

「ブライアン・コネリ—、死亡確認」

 その言葉を聞いた途端、アマデウスの身体から力が抜けた。そばに控えていたシドニーに支えられ、すぐそこのベンチに座らされる。

———第1ターム……全員死亡か。

 アマデウスの頬を、涙が伝った。



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 クィンシーがいなくなってから1ヶ月ほどして、ジュリアンはついに退院した。

 聞いた話によれば、ジュリアンが目を覚ましたのは、手術3日後。それから一週間は、嘔吐や吐血を繰り返し、ひどいものだった。おそらく手術前から、5kgは痩せただろう。

———2度とごめんだな。

 手術前はあんなに張り切っていたが、今では悪夢のようで思い出したくもない。というよりは、意識が朦朧としていたので、何も思い出せないのだが。

 手術後2週間半でどうにか歩けるようになり、リハビリが始まった。新しい身体に慣れてくると、その変化に驚いた。今まで想像もつかなかったほど速く走れるし、高く飛べる。その後も順調に回復し、今日、ようやくアカデミーに帰ることができた。我が家に帰ってきたような感覚で、アカデミーの門をくぐる。

———クィンシーもこんな風に走っているのか……

 久しぶりに再会する友人のことを思い浮かべながら、期待を胸にアカデミーのホールに足を踏み入れる。するとそこには……